MISSION 6 :誰かの謀略で傭兵は食べている
私こと大鳥ホノカは、愛機であるeX-Wのパーツを変えて、名前も新たにアルゲンタヴィスって名付けたのでした。
左肩のコンドルがライフル持ってるエンブレムをはっつけて、いざ新しい依頼へ!
<オペレーター>
『そろそろ目的地である、オーダー新ナガレ区と、それに続くナガレブリッジです』
ヘリに揺られて機体はバリアの中、
今回の依頼は……うーん、内容、ちょっとアレだったな……
<オペレーター>
『今回の目的は、あの橋を占拠するテロリストの排除です』
「そういうことになってるんですよねー。
まぁ実際は違うらしいけど」
<オペレーター>
『もはや、彼らはテロリストです。
何も考えないで、用意された神輿を担ぎ勝手に祭りを行うような……悲しく愚かなテロリストです』
「…………」
何この空気、ってなった原因は、
依頼内容を直接音声で送ってきた相手とその中身が原因だった。
***
依頼主は、オーダー管理用人工知能No.24。
オーダーの世界を管理するAIシステム、『管理者』の一体だった。
《先日、ユニオンより譲り受けた都市区画の住人を、
やむを得ないとはいえ、全員を犯罪者として収容し、当区画を再開発したいのです。
言わば、住人の強制移住と再開発の為の弾圧の依頼です》
No.24は、私の携帯に直接回線を繋いでそう言葉を発した。
「……マジすか?」
我ながら間抜けな返事だなぁ……でもこうもなるでしょ。
《大マジです。
この区画は、本来はユニオンのスラム街であり、彼らも持て余していた犯罪と貧困の温床です。
しかし、これまではユニオンと我々オーダーの管理区域の領土問題の種でもある場所に位置しており、つい先日にユニオンとの交渉でようやくこちらに帰属できる事になりました。
ですが、ユニオンの掲げる自由の暗部である放任主義が災いし、この場所は各種犯罪者集団が出入りする最低の場所となっています。
そこで、我々は不本意ながら、わざとこの場所へ武器を横流しし、一部の人間を焚き付けて暴動を起こさせることにしました》
えぇ…………
「あの、依頼とあらば受けるっていうのは前提として、その……良いんですかね、それ?」
《もちろんダメに決まっています。
しかし、この手段でこの区画から愚か者を残し、勘のいい相手が引っかかる罠を張るためには必要な事でもあります。
しかし、問題はあまりに手際良くやって仕舞えば、我がオーダー管理市民の皆ではなく、隣のユニオンが恐らく内政干渉じみた要求をしてくるでしょう。
全てを計画通りにしすぎたという因縁で、です。
そこで、我々が与えた武器を持った『テロリスト』を武力制圧する役割として、スワンへ依頼をかけることにしました》
そこまでやって置いて、私に?
なんで?
《あなたへ武力制圧を依頼する理由は、あくまで『武器の流出は我々は知らず、オーダー管轄シティーガードは対応が遅れ、やむを得ずスワンへ依頼した』という失態で止める事で、ユニオンの無茶な内政干渉を防ぐという狙いがあります》
「はー…………つまり、私は、何も知らないで、テロリスト鎮圧にやってきましたって感じでやれ的な奴ですか?」
《はい。全てを教えたのは、本当に何も知らないで行動しては、知ってはいけないことまで知ってしまう可能性が高いからです。
当然、背景を知ったからには他言無用で》
「……まぁ、私も新人で頭悪いんで、お金さえ貰えてやる事ハッキリしてれば別にって感じなんですがね……」
にしても、緊張する内容だなぁ……
私でもこの依頼、だいぶ黒い話って分かるよ?
ほら、心なしか隣で聞いてるチビちゃん難しい顔だよ……
《我々は、数千万のオーダー管理市民の皆に平和で安定した生活を送る事を絶対としています。
今回制圧する彼らも、更生施設にてオーダーのやり方を身に染みさせ、改めて市民として迎えます。
……と、言ったところで納得はしないでしょう。残念ですが、人間とはそういうものです。
しかし、私たち管理者は秩序を是として人々を幸福に導くという目的で生み出されました。
その目的のためには、こう言った汚い仕事も進んでやりましょう。
スワン、あなたはどうですか?
依頼を断りますか?》
「……」
どうすっぺ、とオペレーターさんとチビちゃんを見とく。
どっちも私を見てるってことは、やっぱり「後は私の判断」ってことか。
「お金が欲しいので、やります」
《良いお返事です。
作戦開始は、本日18時。日没後です。
詳細はデータで送りましょう》
「まぁなんていうか、毎度ありがとうございまーす!
……しっかし、私も元ユニオンで産まれたし、いや受けるからには文句って訳じゃないけど、
秩序とは程遠い、人殺しで金得て生活している身になっちゃって、秩序とかのために戦って良いのかなって?」
《繋がってるけど、まだ管理者と》
「えマジで!?」
やべ、つい緊張から切り離されて、携帯切ってなかった!
「あ、ごめんなさい!失礼しました!!」
《……なるほど。別に気にしてはいません。
それに、
お金さえあればいう事を聞いていただける、など最も秩序的ではないですか?》
***
「私も、この数日いろんな人工知能と出会ったけど、
なんだろう、根本的に君らは頭が良すぎるって感じ」
ヘリでゆらゆら、飛べない
まぁ、名前も決まった愛機の中、狭いコックピットにぴっちりしたパイロットスーツのインナーに締め付けられてる私はなんとなく呟いた。
<機体AI音声>
《オーダーの管理者は、この数百年少なくとも数千万の市民を管理してきたからね。
劣化しない脳みそに、数百年かつあらゆる場所からのデータの蓄積。
頭がよくなきゃ、逆に嘘でしょ》
なるほど。
そりゃそうだね。
今この狭いコックピットの、左の操縦桿近くにすっぽり収まってるチビちゃん大先輩よりも経験豊富ってことか。目の前モニターだから見えないけど。
「そんなAIが、スラム街を焼いて立て直すってか。
あー、地元もさー、道路とかでこぼこだしやたら建物古いのばっかでさー、たしかにユニオンの地域ってそういう管理ずさんだよねー?
そのくせ都会はすっごい綺麗でさ!
なんか格差ぁ、って感じー」
<オペレーター>
『ユニオンの自由は、経済格差と中央集権の賜物とはよく聞きますね。
さて、そろそろ目標区画に続く橋の上です。
…………見えますか、この状況?』
うん、そうそう、私も気になってたんだ。
めっちゃカメラに衝撃映像映ってる。
放り投げられる、車。当然大炎上。
明らかに無理やりつけたガトリング砲背負った作業用人型重機MWがやったんだ。
ピュンピュン飛ぶレーザーは、ブルドーザーにくくりつけられてるみたいで、やたらめったら撃たれてあちこち燃やして破壊している。
橋はあちこち燃えて、適当な格好の人々が火炎瓶をシティーガードへ投げている。
しかも、ちょっとカメラの倍率上げたら、鉢巻巻いたおっさんが腹巻きにダイナマイトを入れて多分わざと横流された機関銃を持って突撃してる。
「これが暴動……!
気持ちはわかるけど、これじゃあテロリスト言われても文句言えないなぁ!」
シティーガードさんも、数が心なしか少ないしねぇ……やばくね?
<オペレーター>
『ええ、ちょうど作戦時間です。
機体を投下と同時に、上空でのサポートを開始します』
「おっけー!
行きますか!」
<機体AI音声>
《じゃ、早速、
メインシステム、戦闘モード起動》
アルゲンタヴィスを吊り下げていたアームが外れて、急に来た重力を感じながら私ごと落ちる。
左ブーストペダル……したと思ったら……!
「うぉ!?」
機体が今度は上昇した!?
嘘でしょ……こんな軽く踏んだだけで!?
目の前のエネルギーゲージもほとんど減ってない!
「すご……私、これって、こんな簡単に、飛べるの!?」
<機体AI音声>
《これが内装を変えた効果さ。
見た目ほとんど変わってなくても、名前通りこれは『
「へぇ〜……!」
なんと、ヘリと併走できる。
すごいな……エネルギーに気をつければ結構飛べる……!
<機体AI音声>
《どうせだ。1001Bフレームの長所を活かそう。
下向きながら、狙撃戦だ》
狙撃戦……!
かっこいい響き!やってみますか!
両腕の構えたライフルの先、正直ズームしないと見えない相手へロックオンマークが出る。
<機体AI音声>
《さぁて、先輩らしく講義でもやっちゃおうかな。
今見えるロックオンのマーク、色は何色?》
「えっと……一個だけ赤!」
<機体AI音声>
《ロックオンマーカーには色によって意味がある。
今ある赤は、2次ロック済みかつ障害物なしって意味》
「にじろっく?」
<機体AI音声>
《eX-Wの武器のロックオンは、まず機体光学カメラでの敵の視認が最初にされる。そこから敵にライフルなんかの照準がただ合った合った状態を1次ロックっていうの。
その次に、腕とAI予測による相対速度……わかんないか、要するにどう動くか、こっちも動いてる状態でどう相手が動くかを予想してロックオンした状態が2次ロック。
この2次ロック状態じゃないと、大体相手の方向に撃ってますみたいなひっどい命中率になるんだ。
長くなったけど、とりあえず赤いマークのやつから優先的に撃って!》
「おっけー、長いけどなんとなくわかった!」
これそう言う意味なんだ!
じゃあ……赤いやつに早速……
<機体AI音声>
『待って。
撃つのは右ライフルだけで良いよ。
左は撃たないで』
「え?
オッケー……じゃあ!」
なんでかは知らないけど、まずは右腕だ!
相手の遥か上の空中から見下ろして、真上からバンバンとライフルをぶっ放す。
遠く、カメラでシルエットが分かるレーザー砲付きのショベルカーに命中。
ボンと爆発する。
「よっしゃまず一体!」
<オペレーター>
『残敵機体、残り8です』
<機体AI音声>
《いいね。降下するまで全機ぶっ倒すつもりで撃って。
ただし、あの魔改造ショベルカーにはライフル、それ以外には左腕のパルスナで》
「え、ちょ、細かくね?」
<機体AI音声>
『理由は後で嫌でも分かるし、
この程度の敵、そのぐらいやっても楽勝なんだよ。
苦戦なんて論外だから、言われた通りやる!
やってみせなよ、
「あー、まさか私、スパルタ家庭教師買っちゃった?」
やるしかないか!
ショベルには、右腕のライフル。
それ以外───分厚い人型作業用MWには左腕のパルスナ!パルスレーザースナイパーライフルだから?
言われりゃ単純作業の一方的な射撃。
敵に赤い円のマークを合わせて、適切なのを撃つ。
<オペレーター>
『敵反応、残り2』
「もうちょい!
……あれ、アイツ、ロックオンマークが緑になった!?」
<機体AI音声>
《なんか建物とか盾にしてる。
後回しでいいよ……この角度、そろそろ地上戦だ》
たしかに、エネルギーも見ながら浮いてたから、そろそろ地上だったじゃん!
いよいよと私の操作を反映して、アルゲンタヴィスは地上へと降り立つ。
橋の上は静かな物だった。
あちこち燃える敵の残骸に、あちこちで上がる悲鳴と怒号は爆発で掻き消える。
聞いたことがある。
実弾武器の弾薬は、適切に扱わないと簡単に爆弾に代わる。
私は、そう言う管理とか無理だって改めて思う。
彼らは武器があっただけの人間だった。
武器の扱い方を知らなかった。
だから…………反撃を受けただけでここまで燃えた。
まだ燃え上がる炎から出てきた人間の形の炎が道路でのたうち回り、周りの人間が消化しようと手短な服を広げて叩いて。
水はない。消火栓の開け方もきっと誰も知らない。
悲鳴は聞こえない。コックピットの中は案外静かな物だった。
酷い惨状。これが戦場。なんてラップかよみたいな感想は浮かぶけど……
「酷いもんだけど……こうなるって、最初からさ……
まぁ分かんないよね普通は……」
前の戦いの相手が、結構お利口で、基地はちゃんと撃たれた時を想定しているんだなって、なんか解っちゃった。
「私のせいなのは分かるけど……やっぱ気持ち複雑だよこの光景……!」
橋の上の地獄は、私が撃ったせい。
爆発した作業用重機が燃料を飛び散らせたんだ。
少なくとも私のせいなのは確実。
それは分かる。
まぁ……私は冷たい人間だし、案外泣き出しそうとかそう言う心は湧かなかった……
って言ってもねぇ、って言ってもねぇ、
これはキツい光景ですわ…………
当然と言うか、なんか生き残りの人がそこらへんの鉄砲をこっちに撃ってきた。
Eシールドの前じゃかすり傷にもなんないけど、必死の形相で、悲しみと、怒りと、とにかくグチャグチャな感情を見せて撃ってきた。
撃つだけじゃない、火炎瓶に石、なんでも投げてくる。
傍で、黒焦げの子供を、私と同じぐらいの女の子が抱えて泣いている。
…………地獄だ。
「何が辛いって、あーもう……
これ以上酷くなるってことか!」
両足のペダルを左、
ドヒャアッという爆音と共に真横へ移動し、レーザーを避ける。
見れば、瓦礫をかき分けて、あのショベルカー魔改造レーザー砲が、本来土掘る部分に括り付けられたそれを向けた重機が迫ってきた。
<機体AI音声>
《撃てるかい?》
「それ聞くってことは、撃つとやばいことになるってことで確定か」
<機体AI音声>
《PLシステムを介して私がやろうか?》
「私ってさ…………酷い人間なんだよ!!!」
右腕のライフルを2次ロックを確認して引き金を引く。
バァン、と放たれた弾丸は、6mの巨人用のライフル。
それは、きっと戦車砲ぐらいのサイズで、じゃあ砲弾が通った後の人間ってどうなるのってお話。
ボカして言うなら、トマトジュースが飛び散る。
うぇぇ……私もこんな反応で終わりって酷いやつだ。
そんな衝撃波を伴って、砲弾が、一発、二発命中。
爆発。
破片は無事だった人を、まぁ言いたくはない感じに変えてしまい、爆炎でまた焼かれたり、吹き飛ばされる人も出る。
─────テロリストも人間なんだよね。
暴力に暴力で立ち向かうってつまりはこう言うこと。
だからお勉強って嫌い。習いたくはない事は本当嫌い。
これが傭兵の常識だって言うのなら、私は習いたくなかった。
嫌なもんは嫌だ。平気でも、嫌って感情はある。
そう、これを同列に語るのも嫌だけど、黒ずんだトイレの掃除と同じで、出来るけど、必要だけど嫌なことはある。
勘弁してください。
誰にともなく……いや、この場の誰にもそう言いたい。
<オペレーター>
『敵機体、残り1』
今ほどオペレーターさんがアンドロイドなのを感じたことがない。
炎の向こう、逃げ出し始めた人々の群れの中心に、立ちはだかるようにガトリングで武装した作業用人型MWがいる。
「…………マジか」
そりゃさ、今更だけど、躊躇いは出るよね。
撃てば、もっと酷くなるでしょこんなの。
頭の悪い私でも分かった。
────左腕のパルスナは、極めて正確に相手を撃ち抜いた。
私は多分、私を捨てたお母さん以下だな。
ボンと爆発する破片で、倒れる機体で、炎で、燃え広がる燃料で酷い目になる橋の上。
<オペレーター>
『残敵なし。
これで終わりです』
ああ、これで向こうの区画を守る物はなくなった。
そして、オーダーの目論見通り、後はその人らの秩序の手が入るだろう。
<オペレーター>
『今、オーダー管理者No.24より連絡が入りました。
作戦は終了です。後は、オーダーのシティガードが引き継ぎます』
「…………終わり、か。
彼らには同情するけど、こっちも仕事なんだよな……」
<機体AI音声>
『
ほぼ完璧だよ。弾薬費も機体修理費も多分最低限だね』
「……え?」
<オペレーター>
『あ……そうです、今回からは、機体修理費も弾薬費もホノカさん、スワンであるあなた持ちです』
「…………はー、早速バチが当たったか」
<オペレーター>
『気にしないでください。
法的にもスワンとして依頼をこなしたのみ。
罰せられる事はありません』
「気にするよ。私、殺すのに躊躇いはないみたいだけど……やっぱ楽しく人殺すタイプじゃないみたいだからさ……」
ともあれ、アルゲンタヴィスの名前を受けて、初めての任務が終わった。
色んな意味で、案外大した事なかったな。
報酬は10000cn
弾薬費、修理費を抜いて9230cn。
これだけ殺して、これだけ。
本当…………案外大した事なかった。
この程度の事、
きっとこの星じゃ、案外大した事じゃないんだ。
住んでいた場所が突然消えて、騙されて焼かれて殺されて。
それが突然……案外大した事じゃないんだ。
翌朝の新聞でも、一面を飾ることはない。
じゃ、帰ろっか。
案外大した事ない事に、引きづられながらさ。
***
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