MISSION 4 :買い物ひとつで頭も運も全部使うんだね‪……‬







 ぽぽーぽぽぽぽー♪ぽぽーぽぽぽぽー♪



 スーパーの安売り特売の時に流れるあのBGM。

 なんだか耳に残るこの音楽と共に、可愛く踊る小さな影が、私こと憐れな新人傭兵スワンである大鳥ホノカを迎えてくれた。




《安いで安いで〜!本日AI社純正のウェザーリポーターが安いで〜!》


 ちっちゃい太鼓たんたん。


《あなたの機体をPLeX-W化!そしてどんな頭部でも最高級AI型にアップグレード!》


 SALEの紙を割り箸で止めた旗ブンブン。


《AI社が誇るオプションパーツ最高峰の逸品である『OP-AI01 ウェザーリポーター』は、今なら立ったの800cnー。》


 すごい棒読みのキャッチセリフ。


《はー‪……‬真面目だよねみんな。

 どうせ売れないしサボった方が良くない?》


 そしてサボって寝転ぶ子もいる。




「なにこの3頭身の人形みたいなロボちゃん達?」



 思わず、その台の上でわちゃわちゃしているロボちゃん達を見てつぶやいた。


 つぶらな瞳にデフォルメ髪型、三頭身で手がオーブンミトンみたいにちょっと大きくて、足も大きな可愛いデザイン。


 大きさも30cmぐらい。良いサイズでかわいいね。


 なのに値札は「800cn」。

 ユニオン円で800万円って一体何事か。

 最高級な車並みのお値段じゃん!


《なー、そこの新人のスワンっぽいおねーちゃーん?

 ウェザーリポーター一個いらん?ウチとかお買い得やで、狙撃戦機用ロジックパターン型やけど結構強いで?》


 そんな800cnの可愛いロボちゃんの一体が、そう話しかけてくる。


「いやあの、私、ジェネレーターとかそういう内装買いにきたんだけど‪……‬おしゃべり人形800万円じゃなくて」


《いやいや、ウチらそんなただのおしゃべり人形ちゃうねん!

 ウチらはな、そっちの乗ってる機体を、無人活動可能にするわ、AIレベルを上げて大変扱いやすくすることもできる、そらもうものすごい高性能なアタマのおしゃべり人形やねん》


《辞めなって、素人に分かるわけないでしょ。

 どのみち、私達元データが扱いにくい『PLシステム』だしさ、こんな明日死にそうな感じの子には荷が重いって》


「うわ、ムカつくぅ!!ちょっと事実入ってるのがなんかイラってする!!」


 赤いやる気のないロボちゃん、かわいい顔して痛いこと言うな〜!?

 一番気にしていることを!!事実は人を一番傷つけるんだぞ!特に、自分が弱いって自覚してる時にはさ!!


《なんだ、事実って分かる程度の頭なのか。

 悪いこと言わないから、内装変えたら次は身体を強化しなよ。死ぬ確率減るよ》


「なんでそこまでこんなチビちゃんに言われなきゃなんないのさ!

 君らただのロボットでしょ?戦ったこともなさそうなのに!」





 ‪……‬‪……‬‪……‬




 えっ、なに?なにみんなこっちを見てるの?




《‪……‬‪……‬ククク‪……‬!

 たしかに『私と言う個体』は、戦ったことはないよ?》


「へ?」


《PLシステム。


 略さないでいえば、『幽霊軍団ファンタズマ・レギオン』システム。


 私と言う個体の元となったその記憶と思考ロジックパターンは、

 かつてスワンとして戦った人間のものだよ。

 それもかなり強いスワンの記憶が、経験が、思考がコピーされた物がデータ化されて、私と言う個体の電子頭脳にラーニングされてる》


「え‪……‬?」


 ロジ‪……‬え、何?記憶?


《つまり、君よりずっと大先輩って事。


 まぁ本人は多分死んでるって記録だし、私と言う個体はその記憶と思考と経験を持った別人だけどね。


 でも君よかずっと動けるさ。ずっと動けるヤツから出来たんだ。


 まぁアレ。

 買わなくて良いからせめて君の言うおしゃべり人形800万円の先輩を敬ってよね。良い?》


 テチテチあのミトンみたいな手で、頬を優しく叩かれる。



 いやぁもう‪……‬頭真っ白になるぐらい舐められてむっかつくぅぅ〜‪……‬!!



「‪……‬ぐぬぬぬ‪……‬明確に馬鹿にされてる‪……‬!」


《フン‪……‬お互い様でしょ、新人スワンちゃん?》




「─────あらまぁ、売れ残り風情が随分偉そうな事を言っていますのねぇ?」




「ひゅいっ!?」


 また出た!!

 あの後ろに急に現れてほほピトォってしてくるの辞めてくださいませんか!?!


「ああ、ごめんなさい?ついつい、可愛らしい人を見るとスキンシップしてしまいますの〜♪」


「いやマジで心臓に悪いんですがそれは?」


「おほほほ♪

 改めまして、はじめまして大鳥ホノカさん。

 ワタクシ、この火星で武器商人を営んでおります‪……‬火星第89代目、マッコイ商店の主人あるじである「マッコイ」の名を襲名させていただいている者です。以後お見知り置きを」


 ‪……‬‪……‬これだけホラーみたいな登場している割に、このマッコイとか言う人はなんて優雅で上品な挨拶するんだろう。

 何も知らなかったら、お金持ちの家のご令嬢って感じ。着物なのもあってさ‪……‬


「89代目‪……‬?」


「ああ、もちろんマッコイの名前は偽名というか、商売上名乗る通名のようなものですの。

 かつては、地球の片隅で戦闘機がまだ主力だった時代から傭兵相手に商売していたとも、

 そう言う日本の名作漫画にリスペクトを込めて名乗っているとも、

 ああ、あるいは初代が行きつけの料理屋の主人の名前から取ったとも、由来はいろいろありますわ。


 かつて、火星開拓の時に、地球の本来の『マッコイ商会』と暖簾分けに近い形で移り住んだと言うのだけが、今となっては確実な歴史です」


「へ、へ〜‪……‬!」


 それは結構驚きというか、ここはそんな歴史あるお店なんだ。


 閑古鳥泣いてるけど。



「ああ、まったく、なんで他のお店でパーツを買う方が多いのでしょうね?


 ────だからこんな目に遭うと言うのに」



 で、壁一面になんか明らかに盗撮臭い写真がびっしり貼られてる。


 何それ、まさかこのお店利用した方々じゃないのよね?

 なんでそんな遺影みたいな飾り方とお線香もあるの?

 怖いよやっぱ!!こんな店誰も利用できないよ!



「さて、大鳥ホノカさん♪

 とりあえず、ホノカさんの携帯電話に我がマッコイ商店のアプリのインストールと初回登録は終えておきましたのでお返ししますね♪」


「サラリと携帯取られてた上にアプリまで入れられてる!?

 というか、初回登録って、個人情報どこからぁ!?」


「うふふ♪事前情報の仕入れは商人の最も重要なお仕事ですわ♪


 ああ、もしかして、ストーキングでもしたのかと思われてますの?」


「いやそれ以外に何があるんだよ!?」


 ウフフ、とまた笑うとんでもない女の人、マッコイさん。

 でも‪……‬その次のセリフは私の予想を超えていた。



「いえいえ、我がマッコイ商店はかなりの常連さんはおりますし、


 この業界は「お口チャックする方がお金がかかる」物ですのよ?


 現に、すでにあなたの行動やら容姿やら、前に受けた任務などは誰かが知っていて、それがワタクシのお耳に入ってくる」



 ───すごく蠱惑的な笑みで、どこか狐みたいな人を化かす様な目。

 そんな彼女は、さっきまでのホラーすぎる怖さとは、別の何か‪……‬こう、私がバカだからここを上手く説明できないけど、とにかくまた異質の冷たさを感じる怖い目で言ったんだ。


「‪……‬なに、それ?」


「武器商人は武器だけを売る物ではございません。

 いえ?情報もまた武器の一つ。


 この程度調べるなどせずとも風の流れで把握はできますし、お金さえ出せばもっと奥の奥まで毛先の状態までお調べできますわ?」


 ウフフ、と笑うけど、目が笑ってない。

 私にも分かる。

 冗談じゃなくて、マジだ。


「‪……‬‪……‬とんでもないお店に来たと思ったけど、

 別の意味でとんでもないお店に来ちゃったみたいだわ‪……‬」


「あら。この程度はそこらへんの臭っせぇ雑魚ショップでも普通にやっておりますわよ?


 我らマッコイ商店の当主がこの名前を引き継ぐ時に、必ずあるモットーを引き継ぎます。


『金さえ払えば、なんでも仕入れて売ってやる』


 ワタクシもこのモットー通り、値切ねぎろうという不届き者には1発0.1cnのミサイルなどと言うワケ有りアウトレット品を売る人間ですが、


 キチンとした、値段を支払うなら、

 その範囲内では必ず品を揃える。

 情報でもパーツでも、なんならもう一機移動要塞だって仕入れてやりますわよ?


 それが、私こと89代受け継いできたマッコイの名前を持つ者である義務。


 さて‪……‬長くなりましたが、商売のお話をしましょう?

 ご注文は、傭兵スワン様?」


「‪……‬‪……‬」


 目が笑ってない。

 あんな柔和な笑みなのに、その目はあの路地裏の時と同じ、獰猛な肉食獣の目だ。


 あの時、私はとって食われるのかと思った。


 今は違う意味で、食われるかもしれない。


 整理しよう────私は、パーツの知識はない。


 頼みの綱のオペレーターさんは多分まだ路地で倒れたまま。直さなくていいのか心配だ。

 でも一番心配なのは、目の前の相手。


 私はジェネレーターを買いに来ただけだけ。

 と言いたいけど、何を買いたいかわからない。


 もしも、今、私が『いいジェネレーターが欲しいです』なんて馬鹿正直に言う物なら、この人多分ローンぐらい組ませてくる雰囲気がある。


 私の所持金は、68980cn。


 大金だけど‪……‬大金じゃない。そんな気はした。

 私はおバカだし、詳しいことはわからない。

 けど、お金に関しては苦労してたから人一倍敏感な自負はある。


 まずい店に来ちゃったな。

 訪ね方一つで、私は傭兵スワンじゃなくて食材カモになりそう。


 さて‪……‬どうしよう?

 正直助けが欲しいな‪……‬だれか、こう言うことに知識が豊富で、何を変えばいいのか教えてくれる人。




 そう、私は気づいた。


 必要なのは、知識のある人だ。





「‪……‬じゃあ、最初に買いたい物があります」


「はい、なんですか?」



 私は、

 すっと、お買い得セールのカゴの上の、

 あの、生意気なやる気のない、テチテチはたいてきた『大先輩』を指差す。



「そこの、えっと‪……‬色が赤で、ふわふわボブカットっぽい形の、ウェザーリポーターを一体」



《────へ?私??》



 そう。

 アンタだよ、大先輩さん!






《あのさぁ、買われておいてアレだけど、私ことウェザーリポーター、タイプ13は『強化人間用』で、

 AI社と提携している「オーグリスウェポンサービスO.W.S.」社がメインになって作ったガチ強化人間専門なんだよ?

 それとも、強化でもしてくれるって言うなら嬉しいけど》


 早速買って、コアラみたいに左肩に捕まった生意気チビちゃんロボットが言う。


「君の性能は後で考えるけど、今必要なのはその知識なんだ。

 私、まだ一回しか任務してないし、パーツのこと一切わかんないから、知ってる人の知識が欲しいの。

 できるでしょ、大先輩なんだから!」


《ふむふむ‪……‬‪……‬じゃ、まずは携帯電話借りるね》


 スルスル私の身体から降りて、携帯を貸せとミトンみたいな手を出す。

 渡すと早速、尻尾みたいなケーブルを携帯電話に刺した。


《データリンク。

 ‪……‬‪……‬マジか。君、『全額前払い』、やったな?》


 嘘やろ、とセール品の棚で、他の子がつぶやくし、あのマッコイさんも興味深そうに見てくる。


「全額前払い?」


《君‪……‬プロフだと大鳥ホノカちゃんだっけか?

 スワンのが受ける任務ではさ、大抵の場合『やばい』内容っていうのは『全額前払い』でやられるんだよ。


 任務内容と実際の戦場が違ったり、君みたいに明らかに新人の手に負えない戦力がある場所へ威力偵察させるとかね。


 で、もしも間違ってこんな依頼をクリアしちゃうと、大抵は追加報酬が貰えるわけ。


 この意味わかるかい?》


「え?君すごいね、追加報酬あげちゃう!とか?」




《『この任務は他言無用な。これは口止め料』ってこと。

 これ君のオペレーターのソレイユモデルが黙ってたのだろうけど、黙ってて正解だよ。

 というか、思い出させて悪かったよ。

 明らかに内容がやばい任務だよ、知ったことも全て、さっきまでみたいに忘れてた方がいいやつ》


 え‪……‬マジか‪……‬!

 なんか怖い‪……‬


《まぁそれはいいや。傭兵スワンは金さえ払ってもらえりゃ誰の任務でも受けるもんだし、君ぐらい鈍感な方が長生きするよ。

 重要なのは、今の所持金と持ってるパーツさ。


 68980cn


 そして‪……‬いいね、前の任務は相当ラッキーだったよ》


 ん、と抱っこってジェスチャーされたので、持ち上げてくるりとマッコイさんへこのチビちゃんを向ける。



《じゃ、マッコイ。

 この子の機体をここのガレージに早速運んで、


 ジェネレーターと、メインとアサルトブースター、

 そしてミサイルに、レーザーブレードを売っちゃって》



「へ?」



「まったくさっきまで商品だったくせに人使いが荒いですのね。

 良いですわ、すぐに」



 いやちょっと待って、

 今売るっつった?


「ねぇ‪……‬?」


《パーツは売れるんだよ。

 修理代交換代は出撃のたびにすでにこっちが払ってるから、買値と同じで下取り出来る。

 まずは、いらないパーツを売る。


 これがスワンの常識さ》


「えぇ、マジで!?」



《何驚いてんだよ。

 ここからもっと驚くんだから》




 こりゃ私、とんでもない物買っちゃったかも!


 一体、どうなるの!?



          ***

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