MISSION 3 :ショップで買い物しようとしただけなのに







 ────徒歩5分、移動要塞ヨークタウンのここ、甲板かんぱんっていう場所の、エレベーター乗って地下2階。


 なんと、脚元にそれはあった。

 第3甲板ドック内ショップ街。


 私こと、大鳥ホノカが初めて自分の乗る機動兵器 eX-Wエクスダブルを強化するためのパーツを売っている場所。



 さて、私はとある理由でこのショップ立ち並ぶ場所に足を踏み入れる前に、

 私の担当オペレーターさん(美人人型アンドロイド)に言われた、 eX-Wの内装と言われるパーツ達の話を思い出していた。




「良いですか、大鳥ホノカさん?

 少し強い言葉ですが、傭兵スワンとして肝に銘じるべき常識をお教えします。



『高出力ジェネレーターは、スワンの人権

 高推力ブースターは、スワンの義務』



 高出力であれば、それだけブーストの使用やEシールドの回復が早くなり、戦闘が有利に進められます。

 ブースターの推力が高ければ、重い機体でも速くあらゆる行動ができ、例えフレームがそのままでもその戦闘力は確実に高くなります。


 武器を強化するのは、まず内装を強化して、その後使用する武器に合わせたフレームを構築する。


  eX-Wが組み替えを前提とした構造なのは、その組み替えによりあらゆる状況を想定して戦えるからですが、それが出来るのもジェネレーターとブースターという土台がまともだからこそです。


 故に、高出力ジェネレーターは人権であり、高推力ブースターは義務であるのです」





 ────良いジェネレーターは人権、良いブースターは義務。

 この言葉の意味を、私は理解していなかった。




 私は忘れていたんだ。

 私みたいに、望まずスワンになった人間もいるし、

 望んでなっている人間もいる。

 その全員が、『人権』を求めている。




 ズダダダダッ!ダダダンッ!!

 パリィン!ボォン!!



『アヤナミ〜‪……‬マテリアルっ☆

 本日は、アヤナミショップに来てくれてありがとうなのです!

 今日の目玉は!アヤナミマテリアル製のジェネレーター!朝潮12型!まさかの30%オフセー』



 街頭モニターに銃弾がぶつかり、ブーツの音が鳴り響く。


「ゴーゴーゴーゴー!!!

 目標のアヤナミショップまで30m!!

 カートはもったか!?ポイントとケータイはすぐ出してタッチできるようにしろ!!」


「3時方向に敵!クソアマァ、世紀末みたいな車で来やがった!!」



「ヒャッハー!!ジェネレーター特売日だぜぇ、クソビッチどもがぁ!!

 今日こそ、良い奴を無傷で手に入れてやるよぉ!!」


「お前ら殺す程度の弾代なんざ、ジェネレーター代稼ぐまで消費した弾代より安いんだよぉ!!」


「くたばれこのクソアマが!!ジェネレーターは私のもんだ!!」




 治安悪いってレベルじゃないよねぇ〜〜!?!


 全員お買い物だよね!?なんで銃持って撃ち合ってるの!?その刺々しい車で人を轢くの!?!

 なんでナイフ取り出してるの!?なんで斧とかナタで、うわぁエグいしグロいよぉ!?


「ねぇ〜!?!

 オペレーターさん、これ私達店に入れる!?」


「ダメですね。なんて事でしょう。

 やはりというか、ジェネレーター特売日にぶつかるとは‪……‬

 こうなれば、最後まで立っていた人間が息絶える前にジェネレーターを手に入れるまでは‪……‬グレネード!?」


 と、コロコロ転がってきた緑のパイナップルみたいなのを見て、すぐ蹴り飛ばすオペレーターさん。

 遠くで、ヒャッハーしてた一団が爆発で吹き飛んでいた。


「‪……‬‪……‬もっと安全な場所で買わない?」


「‪……‬‪……‬ちょっとその要望は困りましたね。

 見てくださいあそこを」


 と、指差した先、別のショップ。

 なんか‪……‬同じ年代か少し上ぐらいの女の子達が、店員と銃を突きつけあってる。

 銃を突き付けてるんじゃなくて、店員も銃を構えているのがシュールだ。


「あそこも、あそこも。

 どうやら、タイミング悪く傭兵達のジェネレーター交換購入時期と被ったみたいです。

 各企業のショップが、すでに占拠されていますね‪……‬」


「治安悪すぎでは‪……‬」


「しょうがないですね‪……‬あ、すみません、20cmだけ貸していただけますか?」


「え?」


 と、なにやらお金を‪……‬地元なら20万円をサラリと要求されてしまった‪……‬

 まぁ良いやと携帯を貸したら、近くの自販機に‪……‬飲み物でも買うのかな?


 携帯をタッチ。ボタンを押す。

 ───自販機が開いて、なんか四角い銃が一丁出てくる。


「え?」


「どうぞ。PDW-90です。

 パイロットディフェンスウェポンPDWの名作で、装填しにくいですが1マガジン50発入っているので、身を守れます」


「え?」


 うっそ、銃を渡されちゃった‪……‬

 いや、いやいや‪……‬自分でも銃持ってなきゃダメとか治安悪ぅい‪……‬


「ここのチャージングハンドルを一回引いてから引き金を引くと撃てます。

 後、ここのトリガー下のセレクターレバーを変えて連射や単発、安全装置が切り替えられます」


「いやガチの使用法言われるってことは撃たれる前提?」


「安心してください。

 私、バトルライフルで無ければ抜けません。

 確認した限り、皆様アサルトライフルなので、私を盾にして進みましょう」


「進むってどこに?」


「‪……‬‪……‬穴場であり、あまり行きたくないショップがあります」


 なんかヤバい感じする言葉だなぁ!?

 とりあえず、この銃弾飛び交うヤバいお店達の間を、鋼鉄の美人なオペレーターさんを盾に進む。


 いやヤバいでしょ!オペレーターさんが固く無かったら、いやおっぱいとかお腹とかは引き締まりつつも柔らかいパーツだけど、そうじゃなくて銃弾通さなかったら死んでるよ!?


 なんでみんなこんな戦ってばっかりいるんだよ!

 身体が闘争でも求めているとでも言うの!?!



「あれ、あそこめっちゃ空いてるよ!

 そこの白くて綺麗なお店!」


「ああ、レイシュトローム直営ショップですか。

 あそこはダメですね、皆さん近づいていないでしょう?」


 言われてみれば、そこだけ随分と静かだし‪……‬

 というか、店内ではめちゃくちゃ綺麗な赤毛の女の人が、めちゃくちゃ古い時代の映画の黒い凄いカッコいい高級そうな服の人に紅茶か何か貰ってる‪……‬


「なんか、セレブぅ〜‪……‬!」


「レイシュトロームは、高級でハイエンドな性能をモットーとしている企業です。

 特に力を入れているレーザー兵器は、弾薬消費こそありませんが初期投資が高く、

 内装に関してもその値段は相当な物であり、

 その値段以上の超高性能な物ばかりです。


 そのブランドゆえに、その‪……‬スワンの中でも強くてお金を持ちな方々用で、あっちの一々セールのたびに暴動を起こすような金欠スレスレのああいったスワンの皆様とさほど縁はない場所です」


「なるほど‪……‬あれでも、レーザー兵器ってじゃあそんなみんな持ってないの?」


「レーザー兵器にも色々あります。

 レイシュトロームと対抗している、あちらのセールで大暴動からのステゴロ決着の流れになっているショップであるアヤナミマテリアルも、レーザー兵器の大御所であり、思想は違いますがジェネレーターも優秀です。

 ちょっとブースターは尖っている性能ですがね」


 今、店の前で、女の子がしちゃいけないタイプのマジ殴り合いを始めている二人の傭兵スワンがいる店の話を聞きながら、私はまぁまだ理解できる範囲のことをなんとか噛み砕いて進んでいた。


「なんか、でもそれぞれショップ出している中、どれを買うか事前で決めてって感じでみんな行くんだね。

 ひとまとめに売れば良いのに」


「これは何にでも言える話ですが、

 直営店はセールや、ポイント制度によるキャッシュバック、あるいは‪……‬『仕事』の直接の依頼をお得意様に、という機会などもあるので、色々と出す企業にも買う傭兵にも好まれていたりするのです。

 いえ、他の場所なら、複合ショップは賑わっていますよ?」


「ん?

 ごめん‪……‬今勘違いかもしれないけど、オペレーターさんなんか‪……‬含みのあること、言った?」



 ────このロボットさんの性能の良いところは、ちゃんと顔に考えが浮かぶ所だと思う。


 すっごい、頭痛がするかのような表情をしている。



「‪……‬‪……‬着きました」



 気がつけば、なんか暗い場所。

 というか、人気のない路地に来た感じ。

 すぐ後ろはドンパチしてるのに、ここだけ空気が静かだ。


 空気が静か。つまりは‪……‬誰も来てないんだ。

 なんだろう。静かだし、すごく道自体は綺麗なのに、屋内だからって理由じゃ片付けられない何か‪……‬


 この道の向こうに、邪気を

 何か禍々しいものを感じる。


「なに、ここ‪……‬?」


 近くには、看板がある。


『eX-Wパーツ在庫、ヨークタウン最大級!

 マッコイ商店 この先20m』


「‪……‬ここは、この第3甲板ショップ街、唯一の全企業パーツ取扱店舗です」



 ────ぽぽーぽぽぽぽー♪ ぽぽーぽぽぽぽー♪


 遠くから、なんだか懐かしい音楽が聞こえてくる。

 スーパーの特売日に、なんかセールって文字と一緒に音楽を流す小さな呼び込みロボット。私結構アレが可愛くて好きだったな。



 でもなんだろう。

 今はその懐かしい曲が恐ろしい。


 この路地の向こうに、ボウ、と光が灯るのが見える。

 なんの光なんだろう。いや、きっと看板通りなら、向こうにそのマッコイ商店というショップがあるんだろう。


 なんでだろう。行きたくない。

 この感覚、昨日の戦場と、あの敵機体と戦った時と全く同じだ!

 冷たい、冷や水を背中に浴びせられたみたいな感覚。


「‪……‬はぁ‪……‬はぁ‪……‬」


 呼吸が、苦しい。

 なんで?私ただ買い物に来ただけだよね?

 今、私はあの銃撃戦をしている他の同業者が、こうやって銃を持っているはずの傭兵が、ここに近寄らない理由を心で理解した!


 なんかヤバい。ここは人間がいちゃいけない場所だ‪……‬!


「ね、ねぇ、やっぱ、やっぱり、銃撃戦しよう!

 オペレーターさんそうしよう!?ね!?!

 そうした方が、なんか知らないけど、生きていられる気がす、」




 ────




「ヒッ!?!」


 今、誰かに見られた!?

 いや、確実に見られた!!そんな気がするだけだけど、なんか私の中で嫌にリアルな確信がある!!


 まずい。まずいまずいまずい‪……‬!!


 逃げないと‪……‬逃げないと、いけないけど、なんか足が上手く動かない‪……‬!


「オペレーターさん!!もう行こうよ!!

 ねぇ、聞いてる!?」




「────オイ!お前何してるんだ!?」


 と、あのドンパチしている明るい路地から、武装している同業者っぽい同い年ぐらいの女の子達が声をかける。

 すごい剣幕だけど、今はそれが嬉しい!


「あの、こっちにショップがあるって‪……‬!」


「オイオイ、マジかよ、またこんなアホが!?」


「クソ、そういうことか!!

 今すぐこっちに来い!!今回はジェネレーターは諦めろ!!

 そんな場所にいると、お前、は‪……‬‪……‬」




 ‪……‬‪……‬え、何?


 なんで、私の方を見て、突然黙って‪……‬?



「‪……‬、

 ‪……‬!!」



 違う、私じゃない。

 私の‪……‬後ろ!



 振り向く。


 ────いた。


 すぐ目の前に、にこぉと笑う女の人がいた。

 なんというか、普通の状況ならすごい黒髪美人だなぁ、とか、着ているの着物かな?似合うなぁ、とか思ったはずだけど、


 その目。

 まるで、肉食獣が獲物を見つけたみたいな視線で、

 浮世離れしたって頭のいい言葉が思い浮かぶ美人の顔が、恐怖しか生まなかった。




「うわぁぁぁぁ!?!」


「逃げろ!!目を合わせるなぁ!!」


 後ろであの同業者の二人が逃げるのが聞こえる。



 けど、私は振り向くことも動くこともできないで固まっていた。


 あの、肉食獣じみた視線の女の人の、

 そう、その視線そのものから目が離せない。



「───どうもこんにちは、新人の傭兵スワンさん♪

 いやぁ、待っていましたよ!

 ようやく来ていただけたのですねぇ?うふふ‪……‬♪」



「ま‪……‬待って‪……‬?

 しょ、初対面、ですよね‪……‬?」



「ええ。でも、商人というものは情報が命。


 まして、他のショップの臭っっさい匂いがつく前の傭兵さんの情報などは、ワタクシ優先的に集めるタイプですのでー♪」



 ちょっと顔近いんですけど!?

 というか匂い嗅がれてる!?なにそれ変態かなにか!?


「あっ、あっ‪……‬オペレーターさん、やっぱ帰‪……‬」


 もう怖すぎてその人から後ずさる。

 そしてオペレーターさんにまた肩に手を当てたら、


 どさり


 ────そんな音と共に、オペレーターさんが倒れている。


「え‪……‬」


「ア‪……‬が‪……‬で、電気‪……‬妨害‪……‬弾‪……‬!?」


 見ると、お腹のあたりになんか、バチバチ電気を流すコの字の形に変なのが刺さってる!?

 いつのまに‪……‬


「帰るなんて、言わせませんよ?」


「ヒッ!?」


 いつのまにか、後ろから迫っていたあの女の人が、私の肩を掴むだけじゃなく、ほほとほほをぴとぉってくっつけてきた!


「我がマッコイ商店は、豊富な品揃えに万全のサービスを備えております。


 なのに、他の傭兵ときたらすぐに直営店なんかに浮気ばっかり‪……‬


 でぇもぉ?ちょうど新人のあなたのような傭兵がたぁくさん入る時期かつ、ジェネレーターを買う時期には、かなりのお客様が重宝してくれるんですよぉ?


 便利な、皆さんのマッコイ商店ですもの♪


 普段からちゃんと利用していればもっとオマケしたり、少々痛い目に遭わずに済むのに‪……‬うふふ」



 なんか怖いこと言ってるぅ!!

 そして既に手を引かれて奥の店にぐいぐい連れてかれてるぅ!!


「た、助け‪……‬!!」


「もちろん、あなたの傭兵としての戦いを助けて差し上げますとも。

 はい、いらっしゃいませぇ〜♪」



「いやァァァァァァァァァァ!?!?」



 私は、抵抗虚しく、

 その明らかにヤバそうな店に、連れて行かれて


 否────持っていかれてしまった。




 パーツ買いにきただけなのに‪……‬‪……‬





           ***

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