✿7 手は心に預けて

 愛中祭では、教室にきっさ店をひらく部もある。

 和歌先生と花絵先生を教室は高二松のマンガ部きっさへとご案内した。

 ご注文をうかがった先ぱいが、紅茶とマフィンのセットをお出しした。


「せっかくですから、みなさんもめし上がって」


 あれよあれよと、マンガ部全員がごちそうになってしまった。

 その間にマンガのストーリーの作り方や絵のコツ、二人組でのポイントを教えていただいた。

 おいそがしいらしく、そのままお帰りになられた。


「神くん……」


 羽生がちょいちょいと店の外へ呼んだ。


「ああ、オレも話があるんだ」


 屋上前の階段へそろって行った。

 神は足を組んで座った。


「オレと同じこと、考えていない?」

「う、うん。多分……」


 二人でそっぽを向いて、少し赤らんでいる。


「ぶたいでさ、オレ、野美ひなぎく役の志澄香さんに、その……」

「その?」


 神はだまったままだったが、切り出した。


「……ほれたっぽい」

「神くん……!」


 羽生は、顔を両手でおおった。

 ヒトミをうるうるとさせて、胸の内を話した。


「え、えっと、神くんは、たよりがいがあったよ」

「オレ?」


「うん、私を呼びに毎日来てくれたでしょう。窓の下からね。ふられて死にたくなる程つらかったけれども、死ぬのは、痛いことなんだって教えてくれた」

「あのアドリブ、本心だからな。志澄香さん」


「分かってた……。だから、飛び降りなかったの」

「志澄香さんが、死んだらオレが困る。先にいかないでくれよ」


「い、いくって、天国とか?」

「どこへもいかないで」


 神は、立ち上がって羽生に手をのばした。


「あのさ、オレといっしょに帰ってくれるかな。これからも」


 少しうつむきながら、神の手を取った。

 その手はあたたかかった。


「……よろこんで」


 その後、帰り道では手をつながなくなった。

 手は、心に預けて。

 二人とも冷やかされたりするのが苦手になったと赤い顔を手でぱたぱたとあおぐ。


 その代わりに、長電話が好きになったみたい。


 

 トゥルルル……。





「お電話ありがとう。神くん」








Fin.

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デイジーにささやいて いすみ 静江 @uhi_cna

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