第6話 約束の時

 俺は風呂から上がり、髪をドライヤーで乾かしてから、リビングへと向かう。

 そこには、コートを羽織った状態で、成実がどこか落ち着かない様子で立っていた。


「な、成実? 何してるの?」

「何って、君を待ってたんだよ」


 そう言って、成実は俺の元へと近づいてくる。

 俺はゴクリと生唾を飲み込んでから、彼女と向き合った。


「んっ……」


 そして、成実は目を瞑り、唇を差し出してくる。

 俺も成実に倣い、目を瞑って顔を近づけていき、唇を合わせた。


 チュッ……っと軽いキスを一度交わして、お互いに顔を離す。


「好き……好き……しゅき……」


 チュッ、チュッ、チュゥーっと、さらに連続でキスをしてくる成実。

 それに合わせて俺も、成実のキスを受け入れた。

 何度目か分からないキスを終えて、成実が満足そうな笑みを浮かべる。


「ふふっ……はぁー幸せ」


 噛み締めるようにして紡ぐ言葉。


「そうだね。でも、夜はまだまだこれからでしょ?」

「えぇ、君の言う通り。夜はまだまだここからだよ」


 成実はにやりと微笑み、くすっと笑った。


「ねぇ……」

「ん、何?」

「もっとイチャイチャ……しよ?」


 小首を傾げながら上目遣いで見つめて来る成実の破壊力が凄まじい。


「お、おう……」


 俺はしどろもどろになりつつ、そう返事を返すことしか出来ない。


「えへへっ、どうしたの? もしかして、緊張してるの?」

「そ、そんなことはないけど……」


 強がっては見たものの、実のところはめちゃくちゃ緊張しっぱなしで、今だって心臓がバクバク高鳴りを打ち続けている。

 すると、そんな俺の緊張を察したのか、成実が俺の手を掴んできた。


 俺が視線を上げると、成実が潤んだ瞳でこちらを見据えて来る。


「二人で寝室いこっか」


 成実が小声でつぶやいた誘いに対して、俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。


「う、うん、行こうか」


 そのまま二人は手を繋いだまま、ゆっくりと寝室へと向かっていく。

 俺の緊張のボルテージも最高潮に達し、喉まで何かが出かかっている。

 そんなのお構いなしに、成実は寝室の扉の前にたどり着くと、ドアノブに手を掛けたところで急に立ち止まってしまった。


「ど、どうしたの?」


 俺が恐る恐る尋ねると、成実が頬を染めながらこちらを見つめてきた。


「ちょっと、ここで待っててくれる?」

「うん」

「入っていいよって言うから、そしたら入ってきて」

「分かった」


 成実は名残惜しそうにして俺と繋いでいた手を離して、扉を開いて寝室へと入っていく。

 ドアを閉じる際、こちらへと向き直り、寂しそうな瞳を向けて来る。


「大丈夫だよ。ちゃんと待ってるから、行っておいで」

「うん……絶対に待っててね! すぐ終わらせるから」

「いってらっしゃい」


 俺が送りだすと、成実はゆっくりと寝室の扉を閉じた。

 直後、寝室内からドタバタとせわしなく動き回る音が聞こえてくる。

 どうやら、相当何かを急いで行っているらしい。


「ふぅ……危なかった」


 俺はひと時ではあるが緊張から解放され、大きく息を吐いた。

 呼吸が浅かったからなのか、額の汗が止まらない。


「それにしても、成実のあの誘い文句は反則だろ」


 俺のハートが撃ち抜かれるほどに、成実の寝室(ベット)行こは、破壊力抜群で、心を鷲掴みにされてしまった。

 恐らく、この扉の向こうに入ってしまったら、俺はこの理性を保つことは出来ないのであろう。



「お待たせー」


 すると、部屋の中から、成実から入って来ていいという声が聞こえてきた。

 一応念のため、もう一度声を掛けてみる。


「入るよ」

「うん、どうぞ」


 俺は意を決して、ドアノブを掴み、ゆっくりと寝室の扉を開いた。


「い、いらっしゃい」


 部屋に入ると、照明の明かりが薄暗くなっており、いかにもアダルティな雰囲気を纏っていた。

 そして、正面のベッドの上には、成実が寝転がってこちらを向きながら、シーツを被った状態でこちらを見つめている。


「お待たせ」

「えっと、俺はそっちに行ってもいいのかな?」

「うん、来て?」


 成実は妖艶な笑みを湛えて、ぺろりとシーツを捲って誘ってくる。


「うっ……な、なんで裸なんだよ!」

「ふふっ、びっくりした? ちょっぴり驚かせようと思って」

「な、なるほど……コートの時点で裸だったって事か」


 ようやく、リビングで成実がソワソワとしていた理由が分かった。

 まあ、なんとなくお風呂場に水着で入ってきたときから、そうなのではないかと予想していたので、なんとかまだ理性は保てそうだ。


「こっちに来て」

「お、お邪魔します」


 成実に促され、俺は別途の前まで移動する。


「入って?」

「失礼します」


 俺は恐る恐る、シーツの中に入っていく。


「えいっ!」

「うおっ⁉」


 すると突然、成実が思い切り俺に抱き着いてきた。


「つーかまーえた!」

「なっ……」


 全身に伝わる、成実の温かいぬくもりと、柔らかい感触が俺を刺激してくる。

 これはヤバイ……。

 俺のボルテージは、一気に八十パーセントをゆうに超えてきた。


「ねぇ、チューしよ?」


 そのまま、頬を両手でつかまれ、強引にキスへとされてしまう。


「んっ……」


 チュパッ、チュパッ、チュパッ……。


 最初から、キスもフルスロットル全開。

 成実はリップ音をわざと大きく立てて、雰囲気を助長させていく。


「ふふっ……大好きだよ」

「お、俺も大好きだ」


 俺の理性ボルテージライフは、既に残り1になりかけていた。


「てい!」

「ちょっ……成実⁉」


 俺は成実に両肩を掴まれ、そのまま強引に押し倒されてしまう。

 成実は馬乗りの体勢になり、お腹の辺りへと乗ってきて、俺を見下ろす形になる。


「んふふっ……捕まえちゃった♪」


 恍惚な表情で、こちらを見下ろしてくる成実。

 心なしか、目がハートマークになっている気がする。


「な、成実……」


 すると、にやりといやらしく微笑んだ成実は、身体をまげて俺の耳元へと顔を近づけてきて――


「今夜は、もう君の事寝かせないから」


 と、最後の一撃を放ってきた。


 あぁ……ダメだ。

 もう俺は無駄な抵抗をやめ、身を投げ捨てることにした。


「ふふっ、やっと素直になってくれたんだね。それじゃあ……いっぱいイチャイチャしようね」


 こうして二人は、空が明るくなるまで、お楽しみイチャイチャタイムを過ごすのであった。

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同棲彼女はかまってちゃん。甘々彼女と紡ぐ、何気ないイチャラブな日常 さばりん @c_sabarin

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