第5話 風呂場で……

 夜ご飯を食べ終え、俺は風呂でシャワーを浴びながら心を清めていた。

 この後、成実とイチャイチャすることを考えるだけで、気分が高揚してきてしまうのを必死に抑える。


「何やってんだ俺。収まれ……俺の邪悪な心よ」


 念を唱えるようにして自身を落ち着かせようとしていた時だった。


 ガラガラっとお風呂場の扉が開かれる。


 嫌な予感がして、恐る恐る後ろを振り向くと、そこには水着姿に身を包んだ成実が立っていた。


「えへへっ、来ちゃった」


 突然眼前に現れた魅惑の果実を直視できず、俺は咄嗟に視線を前に向けた。


「何してるの⁉」

「えへへっ、君の身体を洗ってあげようと思って、急いで準備してきたの」

「いや、風呂ぐらい一人で入れるってのに」

「そうじゃなくて……君と一緒に入りたかったんだよ」

「なっ……」


 成実の恥じらいながら言ってくる姿を見て、俺の理性が一瞬飛びかけた。


 俺は首を横にぶんぶんと振ってから、桶にたまっていたお湯を頭からかぶって頭を落ち着かせる。

 何とか理性を保ったところで、俺は一つ息を吐いた。


「全く……俺が風呂あがるまで我慢できなかったのか?」

「だって、今まで君から一緒にお風呂入りたいって言ってきたことないでしょ? だからたまには、私の方からサービスしてあげようと思って」

「……何事かと思ってびっくりしたよ」

「えへへっ、サプライズ大成功―! って感じかな?」


 嬉しそうな声を上げる成実。

 俺は成実に背を向けたまま、タオルを後ろへ手渡した。


「なら、お言葉に甘えて身体を洗ってもらおうかな」

「はい、ご主人様のために、精一杯ご奉仕させていただきます」

「こらこら、勝手に設定を作るんじゃない」

「いいじゃん。ご主人様とメイドの方が、なんか良くない?」

「はぁ……もう好きにしてくれ」


 俺が折れると、成実は嬉しそうにシチュエーションを一人で始める。


「それではご主人様。今からご主人様のお身体を私が清めさせていただきますわ」


 そう言って、成実はタオルを俺の背中に当てて、ゴシゴシと身体を洗い始める。


「ご主人様のお背中は大きいですね。どうですか? どこか痒いところはありませんか?」

「大丈夫です」

「こーら。そこはご主人らしく堂々とした口調で発言しないと」


 堂々とした口調ってどんな感じだよ……と、心の中でツッコミを入れつつ、ひとまず成実のご要望通りに試してみる。


「うむ、実によい」

「ぶっ……あははははっ、なんか君っぽくない」

「な、成実が言えって言ったんだろ!」

「あははっ、ごめんごめん。つい可笑しくなっちゃって。それじゃあ、今度は前の方も洗っていきますね」


 そこで、成実が俺の前の方へと移動しようとしたので、俺は成実の腕を掴んでそれを阻止する。


「前はいい! 自分でやるから」

「どうしてですか? 何かご不満でもありましたか?」

「そう言うことじゃなくて! ほら、色々見せちゃいけないものがあるだろ」


 俺がそう言うと、成実は妖艶にふふっと笑い声をあげると、俺の肩へピトっと手を置いて、耳元で囁いてくる。


「問題ありません。私はご主人様の専属メイドですから……ご主人様の隅々まで身体のケアをする義務があります。いくらご主人様がはしたないとおっしゃっても、私は全くそんな風には思いませんわ」

「本当に大丈夫だから! ほら、タオル返して!」


 俺はタオルを成実から奪い取り、自分で身体をさっさと洗ってしまう。


「あぁ……もーう、せっかくいい感じだったのにぃ」


 残念そうな声を上げる成実をよそに、俺はゴシゴシと身体を洗っていく。

 危ない、危ない。

 これ以上成実に何かされたら、本当に理性が保てなくなって、風呂場でそのままおっぱじめてしまう所だった。


「もう、仕方ないなぁ……それじゃあ私は、先に上がってベットで待ってるね」


 そう耳元で囁いて、成実は風呂場を後にする。

 ようやく危機が去り、俺はシャワーで身体を洗い流して、そそくさと湯船の中へと入った。

 身体が火照っているせいで、すぐさまのぼせてしまいそうだ。


「ふぅ……マジで今日はやる気満々すぎだろ……」


 求めてくれるのは嬉しいことだけど、行き過ぎた行動は心臓に悪い。

 それは、一旦湯船の中で心を落ち着かせてから、夜のイチャイチャタイムへと向けて、覚悟を決めるのであった。

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