第4話 代償
「ヤバい、もうこんな時間になっちまった」
時刻は夜の九時を回ったところ。
定時の時間はとっくに過ぎ、空は完全に暗闇に包まれている。
俺は急いで成実の元へと向かうため、駅から猛ダッシュで家まで帰っていく。
マンションへと到着して、急いで玄関のかぎを開けた。
「たっ、ただいまー!」
「あー! やっと帰ってきた! おっそーい!」
玄関の扉を開けると、モコモコとした部屋着姿の成実が現れた。
もちろん、プンスカ拗ね拗ねモードである。
「ごめんごめん。緊急の仕事が入っちゃって、今日中に終わらせなきゃいけなかったんだ」
「むぅ……」
成実は納得が行かないといった様子で、ぷくりと頬を膨らませて不満な表情を浮かべてくる。
「ほら、お詫びに成実の好きなプリン買ってきてあげたぞ」
そう言って俺は、帰宅途中で立ち寄って購入した、洋菓子屋さんのプリンを掲げてみせる。
「ほんとだー! やったぁー! ありがとー大好きー!」
手のひらを返したように、すっかりと機嫌を直した成実は、ぎゅっと俺に抱き着いてくる。
プリン一つで機嫌を直してもらえるなら、安い出費だ。
「ただいま」
俺は改めて成実と向き直り、にこっと微笑みを浮かべる。
「お帰りー。ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し?」
「じゃあ成実で」
超定番フレーズを言ってくる成実に対して、俺は即答する。
「もーう。相変わらず君はエッチなんだから……でもいいよ。私をいっぱい食べちゃって♡」
「冗談だよ」
「えっ、私への愛は嘘だったって事?」
「そこまでは言ってないだろ」
「うっそー! えへへっ、知ってるよ。君はお楽しみは最後まで取っておく派だもんねー」
そう無邪気に言う成実は、にやりとからかい口調で言ってくる。
「ほらほら、お楽しみタイプが短くなっちゃうぞ」
「はーーい」
俺が促すと、成実は素直に俺の元から離れてくれた。
と思いきや、それもほんの一瞬のことで、すぐさま俺の両頬を掴み、チュっと唇を押し付けてくる。
「チュッ……ぷはぁっ、おかえりー」
「た、ただいま」
不意打ちをつかれたただいまのチューを受け、俺が目をパチクリとさせていると、成実がキョトンと首を傾げた。
「ん? どうしたの?」
「いやっ、何でもない。俺、着替えてくる」
「あっ、ちょっと! もーう……もう一回チューしようと思ったのに」
成実の悔しそうな声が聞こえてくるものの、今はもうそんなことはどうでもよかった。
それほどに、成実のキスは破壊力抜群で、あのままキスを続けていたら、今すぐにでも獣へと変貌を遂げていてもおかしくはなかったのだから。
恐らく、俺の理性が今日の夜をもって限界を迎えるのであろう。
それほどに、今は成実の顔を見るだけで、胸がきゅんと締め付けられて、身体が暑くなってきてしまうのだから。
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