第2話

僕は極度の方向音痴だ。そう実感したのは中学の修学旅行で泊まりのホテルがわからず夜の京都をさ迷った時だ。その時は先生に車でホテルまで送って貰った。電車の乗り換えで真反対の電車に乗ったり、中学校の校内で迷ったり、僕の方向音痴エピソードはとどまることを知らない。


――あの日の遭難から一週間。春休みは終わり今日から花の高校生…なのだが、僕は学校が苦手だ。広いし人多いし。あれはもはや人が創り出した迷宮ラビリンスだ。


閑話休題。現在僕は駅にいる。幸い同じ高校の制服を着ている人が多い。登校初日に迷子になることも無く、穏やかなスタートになりそうだ。そんなことを考えながらぼんやり電車を待っていると――


「おはよう、市道くん」


聞き覚えのある鈴の声。振り返ると、そこにはあの日の遭難中に出会った少女、友枝真宵がいた。

なんでここに、同じ高校の制服――様々な疑問が頭の中を駆け巡る。僕が言葉を見失っていると、やけに明るい口調で先に彼女が口を開いた。

「実は同じ高校でした〜。ほら、こないだ言ったじゃん『またね』って。びっくりした?」

「…今世紀最大の驚愕ですよ」

「ぶーぶー、全然びっくりしてるように聞こえないなー。あと同級生なんだから敬語禁止」

…やめなかったら面倒だろうな。

「…わかったよ」

「よろしい」



瞬刻の沈黙の後、電車のドアが開く。

一歩先に踏み出て、彼女が言う。

「一緒に行こっ!」

前言撤回。やはり波乱の高校生活になりそうだ。小さくため息をつき、僕は足を踏み出した。

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恋する僕と迷わない君。 叶和 奈夢 @kanawa_namu

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