ゆびがふれる、一瞬に想う。

ヲトブソラ

ゆびがふれる、一瞬に想う。

ゆびがふれる、一瞬に想う。


 はあ、と大きく夜空に溜め息を浮かべた。午後二十三時五十六分三十五秒あたりの出来事だ。高い所から眺める街は、ひと時の喧騒を落ち着かせて、次に会うまでのさよならを約束する人々で歩道が埋まる。そして、だいたい時計を見て驚き、それぞれの帰るべき場所へ向かって線の上を走り出す。眠気や疲れ、ほのかなアルコールの香り。また、これからそれら温度と香りをまとう為に集まる人がいたりもする。大人しさを持つ極彩色の中で男女が愛についてささやきあっていて、想う事があるのだ。どうか、そのまま身体朽ちるまで手を繋ぎ、永遠であるようにと。そう願う。


「おっまたせー」

「遅い、一秒すら遅れる事が出来ないんだよ」


 はっはっは、と、短めの髪が風に揺れ、頭を掻く彼女。ぼくが生命を繋ぐ為に初めて会った彼女は、少しガサツな性格らしい。


「まあまあ、仲良くしよーよ」

「仲良くはするけれど」


 もう五十七分五十秒じゃないか。普通は約束の時間より最低でも五分から十分くらい前には来るだろう。


 彼女が背後から抱き付いて、首に腕を回すと頬を擦り付けてきて「で?どこでするの?」と聞いてきた。本当に遅れてきた癖に自分勝手な人だなと思った。


「時間が勿体ないから、もうここでやる」

「わーお。お兄さん、見かけによらず大胆♡」


 誰のせいだよ。さっさと済ませよう、時間が…………。


「じゃあ、アタシに触れて………?」

「言われなくてもする。そういう約束で呼んだんだ」


 彼女の身体に触れた。


「頼んだよ、明日」

「うん。さよなら、今日」


 午前零時ちょうど。ぼくが消えて、彼女“明日”の身体に生命が生まれ繋がれた。


「お疲れさま、今日……いや、昨日か。あなたの“子ども”は大事に明日へと繋いでいくから」


 アタシは昨日たちを想って、少し泣く。

 今日になった明日のアタシは昨日より、ひとりでも幸せな日になるよう頑張ろうと思う。


おわり。


 はあ、と大きく夜空に溜め息を浮かべてみる。午後二十三時四十六分三十五秒あたりの出来事です。高い所から眺める街は、ひと時の喧騒を落ち着かせて、次に会うまでのさよならを約束する人々で歩道が埋まる。そして、だいたい時計を見て驚き、それぞれの帰るべき場所へ向かって線の上を走り出す。眠気や疲れ、ほのかなアルコールの香り。また、これからそれら温度と香りをまとう為に集まる人がいたりもする。大人しさを持つ極彩色の中で男女が愛についてささやきあっていて、想う事があるのだ。どうか、そのまま身体朽ちるまで手を繋ぎ、永遠であるようにと。そう願う。


「申し訳無い、遅れた」

「可笑しい人ね。遅れたって言っても二分くらいだよ」


 しょんぼりとしている短めの髪が風に揺れ、頭を掻く彼。わたしが生命を繋ぐ為に初めて会った彼は、生真面目過ぎる性格らしい。


「仲良くしてくれるか?」

「もちろん」


 まだ四十七分五十秒だ。約束の時間より最低でも五分から十分くらい前に来るのは分かるけれど、十五分を二分過ぎて謝られる、本当に可笑しい。


 彼が背後から抱き付いて、首に腕を回すと首の後ろ、うなじにキスをしてくれた。意外と、こういう事はロマンチストらしい。本当に生真面目な人だなと思う。


「少し……こうしてて欲しいなー」

「ぼくたちがそんな事をしても」


 意味は無いかもね。でも、願う事くらいは許されてもいいんじゃないかなあ。


「ここに。触れるといいよ」

「言われなくても知ってますうっ。それくらい知ってますうっ」


 とは故、顔を真っ赤にしながら彼の身体に触れる。


「頼んだよ、明日」

「うん。さようなら、今日」


 午前零時ちょうど。わたしが消えて、彼“明日”の身体に生命が生まれ繋がれた。


「お疲れ様、今日……いや、昨日。君の“子ども”は大切に明日へと繋いでいくから」


 ぼくは昨日たちを想って、少し泣く。

 今日になった明日のぼくは昨日より、ひとりでも幸せな日になるよう頑張ろうと思う。


おわり。

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