第3話

 里中真帆が大学に来なくなってから二週間が過ぎた。


 ゼミの先生はどうでも良いと思っていたが、僕は妙にそれが気になっていた。


 無論、この場合の『気に――』というのは、気があるということではない。僕はああいう、性に奔放なタイプ、自分の可愛さを自覚している人間が苦手なのだ。


 ただ、だからこそ。


 セルフプロデュースに余念のない彼女が、簡単に講義を休むとは思えなかった。

 

 いくつかかぶっている講義があった。その中でいつも彼女は男子に囲まれていた。彼らは里中の不在を気にこそするものの、忙しいのだろうとかそういう理由付けを行っていた。


 それこそ、意外であった。

 

 誰一人として、里中を心配している者が居なかったのだ。


 ヘラヘラと笑い、スマホを弄り、いつも通りぺちゃくちゃと喋りながら講義を邪魔している。いつも通りの日常である。


 そこから里中が欠けたというだけで、彼らに何一つ変化はなかった。


 僕もただのゼミの一員である。


 過度に里中に何かを思ってはいけないということは理解している。


 ただ、何となく違和感が残った。

 

 あの里中が、何の連絡もなく、講義を休むのだろうか。


 彼女のことは苦手ではあれど、そういうところはちゃんとしている人間だったのだ。

 

 そんなことを(適当に)思い出しながら、食堂で昼食を食べていた。


 オムライスである。八号館のオムライスは格別に美味しい。


 講義で疲弊した脳髄に、卵の程よい甘さが染み渡る。


 卵を堪能していると――僕の席の前に「隣、良いかな」という声があった。


 それは、見たことのある顔だった。


 だからこそぎょっとした。


 頬が若干痩せていて、猫背になっていた。


 明らかにやつれているようだった。


「里中の、彼氏さん、だっけ」


「元、ね」


 確かゼミの前、ゼミ室近くまで何度か一緒に歩いているのを見たことがあった。


 高身長ですらっとしている、同性の僕でも格好良いと思える男だった。


 だった。


 今はそうは見えない。


「確か、君って、里帆さんと同じゼミの人だよね」


「うん、そうだけれど」


「そうか。ちょっと、相談があるんだけど、良いかな」


 何となく気になって、話だけ聞くことにした。


 簡単に言うと。


 里中真帆は、行方不明になっているらしい。

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