第2話

 一人で溶けたアイスを食べた。

 

 どろりとしていて、ところどころサラサラしていて、美味しくなかった。

 

 いつもは蓋を開けてからぐ食べてしまうので、普段はない触感だった。


 用意したスプーンが、何だか虚しかった。


「ああ、もう!」


 そのまま、スプーンごと容器をゴミ箱へと捨てた。

 

 カップの底に残っていたバニラの飛沫が、周囲に飛び散った。 


 黄色い斑点が、床と壁に付着した。


 苛々した。


 この苛立ちを、何かにぶつけたかった。

 

 でも、どうしようもなかった。

 

 玄関には、もう誰もいない。


 彼はどこかへと行ってしまった。


 追おうとはした。


 ただし、思考がそこへと至ったところで、既に彼氏は、そこからはいなくなっていた。


 誰かにフラれるなんて初めてだった。


 男なんていくらでも替えが利く。

 

 私を好きな人なんていくらでもいる。


 でも――それなのに、誰かから拒絶されたという事実が、信じられなかった。


 というか――信じたくない。


 おかしい。


「いや、いや、いやいやいや。おかしいでしょ、なんで、なんで私が?」


 LINEを開いて、彼氏に電話を入れた。

 

 繋がらなかった。ブロックされているらしい。


 おかしい、どうして私が、こんな目に遭わなくてはならない?


 どうして、私の方を振り向いてくれないのだ。


 何度も何度も電話をかけようとした。

 

 通話ボタンが出るたびに押した。


 表示されるのは「ブロックされているため通話ができません」という無慈悲な宣告しかなかった。


 理解が、できない。


 私が。


 この、私が?


 どうしよう。


 どうしよう。


 どうしよう。


 どうしよう。


 どうしよう。


 どうしよう。


 どうしよう。


 どうしよう。


 どうしよう。


 気付けば、私の部屋の中は滅茶苦茶めちゃくちゃになっていた。


(続)

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