終わりと始まりの戦い⑥ 集いて


 創造主が万象を破壊する光を放った時、ゼロは自身が戦士達の盾になることを覚悟した。


 そうなるべきだと確信していた。


 最高のイスラリア人、そうあるように父クラウランに創り出されて、そうあろうとしたが、それでもやはり、その全ての素養を引き出すには時間があまりにも足りていなかった。どんなに背伸びしようと自分は子供で、生まれたばかりだった。


 その事は歯がゆくあった。なにせ与えられた知識によって知っていたからだ。


 この世界が不安定であること。明日にでも滅んでしまうかも知れないという事を。そしてその懸念は現実のものとなった。尚のこと、ゼロは焦った。このままでは間に合わないかも知れないと。


 ――謝らなければならないのは私の方だとも。もっと子供のままでいさせたかった。


 クラウランは決してゼロ達の事を咎めはしなかった。その優しさが、慈愛が、尚のことゼロを焦らせて、結果として空回ってばかりだった。


 それでもようやくこの土壇場で、役割は出来た。


 盾になる。神に届く可能性をもった戦士達をなんとしてでも生かす。その為ならば、自分達がどのような事になろうともしった事じゃない。そんな風にすら思っていた――――なのに、


「【終、断!!!】」

「ユーリ!!?」


 放たれた、全てを破壊する光はゼロを砕きはしなかった。彼女が飛び出すよりも更に早く、ユーリが前に飛び出して、その剣で衝撃の一切を切り裂いたのだから。


「…………っが」


 だが無論、そのあまりにも無差別で広範囲な攻撃の全てを切り裂くことはできなかった。がくりと倒れ伏せたユーリを視て、ゼロは悲鳴をあげた。


「なんで!!」

「ゼロ!落ち着け!」

「治癒を急げ!」


 兄姉達からの声に応じることはできなかった。身体が上手く動かない。全身に満ちて、呼吸も難しくなるような怒りは、全部に自分に向けられていた。何一つ上手くできない自分に対する怒りが、彼女を押し潰そうとしていた。


「貴方を護らねばならなかったのに!どうして逆になるのですか!!」


 悔しい、どうしてもうまく出来ないことが悔しくてたまらない。堪えようとしても涙がボロボロと零れて、ボロボロになったユーリにふりかかった。


「喧しい、ですね……全く」


 だが、この状況であっても尚意識をもっているユーリはやはり、尋常では無かった。それどころか、生み出した剣を杖のようにして、魔機螺で出来た道を歩む。彼女の向かう先に歪なる無数の天使達が飛び交って、こちらに向かってきていた。


「無理です!私たちが――――」


 なにが出来る?直接戦うには能力不足。支援すらもおぼつかない。こんな状況下で前に出張っても、また庇われるだけだと分かっている。それを理解出来ない彼女ではなかった。それがあまりに悔しくて、声も出なかった。


 すると、一瞬こちらを見たユーリは、あまりにも情けない顔になっていたゼロに、小さく笑った。


「良い子だから下がってなさい」


 そう言って、とても優しく頭を撫でると、そのまま前へと彼女は飛び出した。




              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 善き者の守護者となれ。


 自分という剣の使い道を示した王の託した願いは、険しくも暖かかった。王のためでもなく、国の為でもなく、善き人たちを護るのは、大変な道だった。差別は出来ない。贔屓もできない。愛する人や家族と、敵対している者達とで扱いを変えてはならないというのはあまりにも困難だ。

 生まれながらにして宿った才能でもっても難しい。だが、その道しるべがあったからこそ、ユーリは今のユーリになれた。そしてそんな自分をユーリは嫌っていない。これほどまでに突出した力を有しながらもそう思えたのは、やはり王のお陰だと思える。


 とはいえ、それでもやっぱり大変は大変で、苦労ばかりだ。それに、


「ユー、リ……!まだ、行ける……!?」


 その険しい道を、息を吸うように実行に移す友人がいるのはちょっと腹が立った。

 魔機螺の道の先で、ユーリよりも前で自分たちを護るために、剣を構え、ボロボロになっても尚立ち続けるディズに、ユーリは鼻を鳴らした。


「……ムカつきますね。まだ彼に発情してたときの方が可愛げがあった」

「いきなり酷いね!?」

「五月蠅いですよ――――いけます。無論」


 そしてそのまま二人で並ぶ。歪なる天使達は無数に飛び交う。倒さねばならない巨神、創造主の姿が隠れて見えなくなる程に。しかしそれでも、怯むことはなかった。


 王からの言葉は、もうとっくにユーリにとって自分自身の願いとなっていた。


 善き者達を護る。その守護者としてユーリは剣を握りしめ――――


「――――む」

「リーネか!」


 その瞬間、鮮烈極まる魔法陣の輝きがユーリ達を包み込んだ。




              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 同じタイミングで、シズク達にもその光は届いた。


「……!?」

「こ、れは……!」


 歪なる天使達との決死の攻防、その限界の果てにリーネからもたらされた力を前に、シズクは驚いた。神の統合、その際に獲得した竜達の総量とは比べるべくもないが、圧倒的に洗練されていた。傷だらけだった彼女の心身を満たした。

 

「行ける!!」


 一方で、その力を受けることに慣れていたのか、エシェルは即座に反応し、動いた。装備していた冠が広がり、彼女の黒衣を抱きしめるようにして一気に解き放った。


「【宵闇よ、陽月を喰らえ】」

〈AAAAAAAAAAAA        〉

 

 天使達が、一気に弾けた。エシェルが放った闇に触れた瞬間、二神の力が入り交じった天使達が弾けて砕ける。そのまま闇に呑まれて消えていく。まるで竜の如く、巨神から零れて荒れ狂う力までもが食らいつくされる。


 彼女の力が満たされた空間が、一切合切彼女に呑まれて消えていく。


「――なるほど」


 シズクもその現象を理解した。

 自分たちが行っていた力の統合や強化、それらを白王陣が行っている。より広範囲に、より強力な別の形で。リーネの研究はここに来て、到達したのだ。

 彼女の能力を疑う余地はない。

 神となった自分も、彼女に追い詰められたのだから。


「エシェル様」

「うん!!」


 合図と共に、彼女の黒衣から、天使達の奪った力が零れシズクに注がれる。それは月神の力の断片だ。元々、彼女だけでは抱えきることができなかった危険極まる力の欠片が再び彼女の元に集まる。

 しかし、月神として戦っていた時の負担はなかった。理由は分かる。今も尚、鎧のように彼女の身体を覆い、守り続ける灰の炎と緋色の糸が彼女の心身を守り続けていた。

 その事に感謝しながらも、シズクは力を解き放つ。


「【終焉災害/白銀の虚月】」


 出来ることは減ってしまった。エシェルから分けられた力は多くない。以前のように万能ではなくなったのだろう。だけど不思議と、不自由な気分にはならなかった。

 今の方がずっと自由で、そしてきっとなんだって出来るだろう。


「【月光よ、偽りを照らせ】」


 月光が輝き一帯を覆う。

 傷を負った仲間達、その装備が輝いて、その傷を癒やし破損を修繕する。真を偽りとする。無論、治していったそれらも即座に再び破壊され、繰り返すだけならそれはいたちごっこだ。


「【救世執行/黄金の聖陽】」


 だが、シズクに動揺はない。

 宵闇と月光の後、待っているのは夜明けだ。


「【陽光よ、真を焼き払え】」


 太陽が燃えさかる。そして天使達は一斉に焼き払われた。


「皆!無事!?」

「ディズ様」


 シズク達と同じく、リーネの支援を受けたディズがやってきた。近くに着地すると、シズクの表情を見て彼女は微笑んだ。


「少しはマシな表情になったね。アカネもありがとう」

「《ええってことよ-!》」

「お手数をおかけしました」


 シズクが頭を下げるとディズは笑って、彼女を抱きしめた。


「こういう風に出来て、嬉しいよ」

「はい」

「殺し合わなくて、よかった」

「はい」


 そう言葉を交わして、二人はうなずき合った。つい先ほどまで、死に物狂いで命を奪い合っていた二人は微笑み合う。それでもう十分だった。


「それじゃあ、ウルの所へ急ごうか」

「でも、まだまだ天使達一杯居るぞ……!」


 エシェルが叫ぶ。そう、どれだけ殺して殺して殺し尽くしても、天使達は無尽に沸き続ける。当然と言えば当然だ。神の力が祈りと呪いによるものならば、人類が滅びない限り、天使達もまた、尽きぬ。本体を、創造主を倒せない限り、天使達をいくら倒しても意味はないのだ。

 無尽蔵の天使達を超えなければ、彼の元にたどり着くことは出来ない。


「まあ、なんとかなると思うよ。何せ――――」


 だけど、その事実を前に、ディズはどこか楽観的な言葉を吐いて、少し困ったように頬を掻いた。


「――――ユーリがちょっとえらいことになったから」

「【剣化】」


 次の瞬間、何が空を駆けた。

 灰色の炎と星天の輝き、二つの力を纏ったソレは上空で構える。創造主の中からこぼれ落ちた歴々の【天剣】達の意思と願いが加護となりて、歴代でも最強の天剣の元に集結する。


「【抜刀/灰炎天剣】」


 貧弱なる【灰炎】の加護ですらも神に抵抗し得た天賦の少女。

 歴代の天剣達の祈りが込められた加護が結集し、彼女は真の剣と化した。

 剣を握り、構え、そして解き放った。


「【終断・彼岸無双】」


 次の瞬間、空間全てが切り裂かれた。 




              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「凄まじい……!」

「す、ごい……!これなら、いけます!!」


 それを遠くから眺めたゼロは、拳を強く握って、叫んだ。劇的な状況の変化に目が回りそうになるが、創造主からの一方的な蹂躙から、状況は一変した。

 無論、動きを止めている創造主が再起動したら、またどうなるかまでは分からない。だけど、まだ、全てを諦めて絶望するのは早いと、そう思えた。


「私達も――――「【やっと会えたわね】」


 やれる!その思いでゼロは振り返ると、不意にぽんと肩を叩かれた。兄姉の誰でもない声と掌で、ゼロは意表を突かれた。


「え?」

「【蒼極陣とかなめくさった魔術つかってたわよねえ……!】」


 それが誰なのか、ゼロは知識で知っていた。レイライン。白王陣の使い手にして灰王の仲間の魔術師だ。分かっているはずなのだが、中々認識出来ないのは、あまりにも彼女の様相が知識のそれとは違っているからだろうか。


「ひあ」


 白く輝く身体、自在に蠢く白い髪、だが何よりも、その鬼のような表情があまりにも怖ろしすぎて、ゼロは思考が停止した。


「【アレ白王陣のパクリだろこらああああああああああ!!!!!!!】」

「きゃああああああああああああ!!!?」


 ゼロの泣き声と悲鳴が天使達の殺戮の最中に響き渡った。





              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




〈……ああ〉


 創造主イスラリアは何かの夢を見た。


 夢、と言ってもそう言っても良いのか怪しい。ありとあらゆる魔力を収束している神の肉体に、何処から零れた思念の断片が再生されたのかもしれない。

 内容は覚えてはいなかった。星剣を砕かれて混乱した制御装置を新たに創り出す為の再構築で彼の意識は一時的に途絶した。そのはざまに見えた幻影に過ぎなかった。


 重要な記憶ではない。そう思い意識を取り戻す。


〈なんだ、これは――――〉


 創造主イスラリアにとって、最初この状況は戦いではなかった。


 命の奪い合い、殺し合いという段階に至ってはいなかった。こちらに向かってくる連中は何一つとして、敵ではなく、害にはなりえなかったからだ。

 彼にとってこの状況は、方舟の内部を一新するための作業でしかなかった。ひたすらに害虫を駆除するための薬品を散布するかのように淡々と行うだけの作業だった。


 だが、今は状況が違った。


 歯牙にもかけなかった有象無象達が、自分がとりこぼした力を取り込んで――――と、いうよりも、その力そのものが彼等に力を貸し与えているという理解しがたい現象が起こっている。その力を獲得した連中が、先ほどとは比較にならない力を振るい、瞬く間にこちらの尖兵をなぎ払い、迫ってくる。


 一方で、こちらの力は未だ不安定だ。星剣の代用術式は創り出したが、突然制御装置を引き抜かれた事で起こった誤作動はそう容易くは修正出来ない。これほどの高エネルギーを御しきる為に精密なバランスを維持していたのだ。その骨子がいきなり引き抜かれて、安定する筈がない。


〈AAAAAAAAAAAAA!!??〉


 七天の力を込めたはずの天使達が次々に墜ちていく。無数の光が駆け巡り、破壊していく。それらの力は明らかに、自身を再構築する前と変わっていた。劇的と言って良いほどに。

 何が起きた?

 こちらの不具合はまだ良い。幾らか力が削げようと問題は無い。再生は可能だ。

 だが、相対するイスラリア人達の劇的な変化は解せなかった。


 彼にとっても未知の現象だった。


 知る由もない話だ。

 悪感情の変質は彼も知っている。【廃棄孔】のシステムを創り出したのは彼なのだから当然だ。しかし、それ以上の現象を彼は知らない。善の感情による変質は悪感情の変質と比べ、あまりにも慎ましく、めったなことでは現象化することは無かった。彼が生きている間、その兆しすらも起きることは無かった。


〈おいおいウルよ。放置してたら立て直すぞ?畳みかけろよ〉

「うるせえわかってるから黙ってろ!!」

〈っ……!〉

 

 あの旧人類の攻撃が迫る。それを羽虫を扱うが如く払う事もできなかった。未だ、巨神の肉体は不安定だ。咄嗟に放つ魔術フォースは相手を怯ませはするが――


「【灰炎】」


 ――凌がれる。この旧人類も明らかに先ほどと比較にならぬほど、別個体のように強くなっていた。

 そして、その現象を引き起こしているのは間違いなく、空間を満たしている術式だ。理解は出来る。創造主イスラリアの知識をもってすれば解析は容易い――――筈なのに、それを読み解こうとした瞬間、ノイズが奔る。


 ――いーす


〈五月蠅い……〉


 先ほど見た夢の残滓が反復し、耳鳴りする。

 だが、そもそも今の自分に耳鳴りなど起こるわけがない。今はもう、自分は肉の鎧すらも失っているのだ。何もかも失ってこんな有様になって、尚もかつての記憶に縛られている。


〈鬱陶しい〉


 八つ当たりのような、殺意と怒りがわき上がる。

 

 認めよう。これは闘争だ。


 目の前で抗い続ける連中は、自分の敵だ。打倒しなければならない害悪で、自分の目的を達成する上での障害である事を認める。その上でどうするか。


 当然、決まっている。


〈【創世ジェネシス・再展開開始】〉

 

 全てをなぎ払う。

 その為に巨神は翼を広げ、天空に展開した超巨大術式を再点火した。



              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



《天空の術式が起動を再開しました!!》

「さっきのアレか!」


 通信から聞こえてくる悲痛な声に、ウルは舌打ち上空を見上げた。先ほど、一瞬でその場に居る全員を瀕死に追いやった天空の術式が、まるで歯車が回るかの如く回転しながら、再起動を開始していた。

 こちらのリーネのお陰で強化を受けている。先ほどと全く同じならしのげる可能性はあるが――――当然、というように、状況は同じでは無かった


《早……!?ま、さか……!惑星全土を包むつもりなのか!?》

《方舟どころか、全部消し去ると!?》


 シンタニ達の悲鳴が聞こえてくる。どうやら本当に、滅亡の危機が迫っているらしい。


「さて、どうしたもんかねえ……そんな広範囲に撃たれたらどうにもならんぞ」

「ウル、君の灰炎でなんとか出来る?」

「流石に圧死する。アカネいけるか?」

「《むーりー》!エシェル様はどうですか?」

「う゛ー!!!」

「だめかー」


 ダメそうだった。


「ユーリ様はどうです?」

「出来るわけないだろう!?」

「威力が先と同じなら、自分の身を護るくらいなら出来そうですが……」

「出来るんだ……」


 ユーリは通信越しに、なんでもないというように断言し、エシェルをドン引かせた。「だけれど」と彼女は話を切る。 


「私の本質は斬ることで、護ることではありません。攻撃を切り裂いても、圧殺されます」

「全部吹っ飛ばされりゃおしまいと」


 そもそも向こうの状態は不安定になっているようだが、引き換えに本腰を入れてこちらを排除しにかかっている。先ほどと同じように凌ぎきれるか微妙なところだ。


「どのみち時間はないぞ!!座しても死ぬだけだ!」

「持久戦で勝てるわけもないし、な!」


 そして、しゃべっている間にも天使達が再び出現し始める。最早向こうもなりふり構わない様子だ。天使たちはスーア達が凌いでくれるが、猶予はない。


「止めるしかねえか……ダヴィネ!魔機螺装甲出せるか!!」

《コレが最後の在庫だ!シズクが直した奴も含めりゃなんとかならあ!!》

「よし、カルカラ!俺達で隙を作る!そのタイミングでウーガの咆吼をたたき込め!」

《アレに通じますか!?》


 カルカラは疑問をこぼす。まあ、分からないでもない。あの巨神が放つ火力の一つ一つが、既にウーガの最大火力を超えている。火力面でのインフレがあまりにも著しい。ただ単にウーガの最大火力をぶつけたところで、容易くいなされてしまうのがオチだろう。

 だがそれはウルも分かっている。分かっているから、リーネに視線を移すと、彼女は頷いた。


「任せなさい。戻って準備するから。ちょうど良い助手も見つけたしね」

「助手ってお前が首根っこひっつかんでるゼロの事言ってる?」

「ぴぃ……!」


 ゼロは泣きながら、こちらに助けを求めてくる子犬のような目をした。ウルは申し訳なさそうに合掌した。


「すまん、頑張れ。多分殺されないと思うから」

「ぴい!」

「まあ、こちらはお任せを。リーネ殿を援助しますから」


 リーネとゼロは兎も角、他の真人達は安定している。ので彼等にそちらは任せた


《では【咆吼】の準備を進めておきます》

「ウーガの戦士達はその間の防衛!ジャイン、イカザさん。ビクトールさん、頼む!!」

《死ぬなよ!ウル!》

《任せろ、戦士達よ!踏ん張りどころだ!》

《ユーリ!気をつけろ!》


《【魔機螺展開・攻神形態!!】》


 指示と同時に、ウーガから跳んできた大量の魔機螺が巨神の周囲に建造物を構築しだす。中心の巨神を攻めるための足場と防護壁が一瞬で構築される。それは即座に放たれる魔術で粉砕されるが、砕けた側から再び再構築を開始する。


「エシェル!スーア様!!転移術を展開してくれ!敵の超広範囲攻撃は転移で回避する!」

《わかりました》

「大丈夫だ!」


 指示を出すと同時に、構築された防壁陣に転移の魔法陣と闇が出現する。無論、天空の術式が起動すれば回避などしようはないが、それでもありがたい。


〈へいへーい、ウル。俺は俺は?〉

「俺の言うこと聞く気あんの?」

〈ねえ〉

「俺達に余計な事すんな。神様に余計なことしてやれ」

〈良いね〉


 魔神は楽しそうに姿を消した。

 仲間としては信頼は出来ない男だが、その悪意には信用がある。あとは任せよう。

 ウルは最後に一度、仲間たちの顔を見た。ウルと同じくらい、誰もかれもボロボロで傷だらけだ。だけれど、誰一人として、生きるための力を失ってはいなかった。

 ならばあとはもう、その意志を叩きつけるだけだ

 世界を創り、そして壊そうとするあの神様と、どちらが上かをぶつけ合うだけだ。


「行くぞ!」

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