祭囃子は近く



「あなた様を殺せる暗殺者などおりません!」

「黄金級すらも殺せる凄腕がいるらしいぜ?ワンチャン期待したんだがな。んで?」


 ゲイラーに尋ねる。何か面白い話でも持ってきたのかとおもったが、彼が両手に抱えているのは、何一つとして楽しいことなどなさそうな大量の紙書類であった。それを見ただけでブラックはげんなりと顔をしかめる。


「作業の進捗の確認を……」

「おやすみー」

「魔王様-!」


 二度寝をかまそうと思ったが、ゲイラーが泣き叫んだのでやむなく屋外に設置した簡易ベッドで伸びをして、彼が持ってきた書類に目を通して。速読でパラパラと読み通しながら次々と処理していくが、量が多かった。


「やれやれ、祭りの準備ってのは地道なもんだ。俺ってば働き過ぎでは?」

「魔王様が「おっしゃプラン前倒しで新兵器稼働させんぞー」とか言い出したのが原因なのですじゃが……」

「やはり一致団結で頑張らないといかんな、うん。頑張ろうかゲイラーくん」


 適当なことを言いながらも書類をさっさと処理していく。実際見ていくと、大罪竜グラドルを討つ際に国を滅ぼしたにも拘わらず、作業進行度合いは順調といえた。


 これなら、決戦には間に合うかね?


 にっちもさっちもいかなかった場合は“自爆特攻”の運営も視野だったのだが、この分ならその必要もないようだ。目の前のゲイラーも含めて、どうやらブラックが想像した以上にこの国に残った“物好きども”の数は多いらしい。


 ――全く、末世にふさわしい血迷った者達ばかりで大変よろしい。


「魔王様、世界は壊れますかな……?」


 そんな血迷った者達の代表者とも言えるゲイラーが尋ねてくる。冷静なようにみえて、言葉の端々からは期待が零れていた。魔王からの破滅の保証を待ち望んでいる。大変わかりやすくてよろしい。


「滅ぶのは確定さ」


 方舟を完全に治すのか、砕くのか、それはわからない。あるいは自分のように、どっちの目論みも漁夫の利で利用してやろうという悪党もいる。果たしてどちらの方へと世界が転がっていくかは今はまだ誰にも分からない。

 だが、世界は滅ぶ。今の世界の形は何をどう足掻こうとも決定的に崩壊する。それだけは確定だ。


。お前の望み通りになるとは限らないぜ?」

「――――構いませぬ、滅ぶのであれば」


 魔王の言葉に、ゲイラーは魔王の言葉に微笑む。その表情は狂気じみていた。憎悪に満ち満ちた邪教徒達のそれとはまた違う、待ち望み続けていた希望が叶うことに対しての歓喜の笑みだ。

 他の物好き連中も似たり寄ったりだ。多種多様なる狂人達の集まりであり、国そのものが滅んでも尚、こんな奈落の底にいることを望む者達ばかり。


「さあ、頑張ろうじゃあないか、諸君」


 熱狂と轟音、激しく吹き上がる蒸気と何かしらの駆動音。騒乱というに相応しい自国を背負い、ブラックは笑う。あらゆる感情が凝縮された獰猛な笑みだった。


「派手に行こうぜえ?あの世のアルノルドが顔を顰めるくらい派手にな」




              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 白銀の大悪の竜

 黄金の神の勇者達

 そして地の底の黒き魔王


 崩壊していく世界のそのただ中、中心となった三つの勢力は蓄えていたその力を引き出して、今まさにぶつからんとしていた。

 誰が潰え、誰が勝利し、そして世界がどう変わっていくのか。それは最早誰にも分からなかった。

 強大なるそれらの力に与することも、拒絶する事も出来ない民達はただた両手を合わせ祈り、あるいは自棄になって目を背けるほか無い。膨大な力と、それが引き起こす奔流に、誰しも流されていた。


 ――――が、全く諦めの悪い者もいた。


《新谷博士、よろしいでしょうか》


 Jー04ドーム。

 新谷は新しくあてがわれた自室に引きこもり、惰眠を貪っていたところを、来訪ベルからの通信音声にたたき起こされた。昨日は、貴重な趣向品の酒を、与えられた地位と権限にかこつけて入手して、浴びるように飲んだ所為で頭が痛かった。


「……なんの用だ」


 コップに注いだ水道水を飲み干しながら、ウンザリとした口調で来客に応じる。


《実は、新谷博士に話を聞きたいという者が……》

「……は?そもそも君は誰だ?」

《佐上浩介、自警部隊の三等兵です。実はその……私の知人が――》

「帰ってくれ。済まないが、私は忙しい」


 馬鹿馬鹿しくなって、新谷は斬り捨てた。

 大方、中枢ドームの壊滅で混乱したドームの住民が、なんとか情報を集めようと自警部隊にかけあって、無理矢理自分から話を聞こうとしているのだろう。似たようなことは何回もあった。だが、心底どうでも良い話だ。

 誰の所為か、誰の責任か。

 そんなことを確認して安心したいのだろうが、そんなことはわかりきっている。自分の所為で、自分の責任だ。そしてもう取り返しが付かない。だからなにも言わない。

 事が終われば、袋だたきにでもされて、殺されてやるから、今はそっとして欲しい。そう願いながら、新谷は再びベッドに潜り込もうとした。


《……っぱ、……リだ……ちょ……ま》

《わか……ど…………すこ………》

《や、やめ、あ、あー!!!》


 何故か騒がしい声が続く。何事かと眉をひそめていると、不意にズドンという激しい破壊音が響いた。


「………は?」


 玄関の扉に何かが突き刺さっていた。

 金属の、巨大で鋭利な突起物が、何故か扉に突き刺さっていた。全く意味が分からず混乱する新谷の目の前で、その突起物はぎぎぎぎと、ロックされていた筈の扉を強引にへしまげて行く。確か此処の扉は暴動を抑えるために爆発にも耐えれるくらい頑丈な筈なのに、粘土細工のように歪んでいく。


「よっと」


 そして扉が見事にその用途を成さなくなった。


「あーもー……もう俺ドームにはいられねえなあ……美鈴にも言っとかねえと……」

「ウチで雇ってあげるわよ。というか、もうそうなってるでしょ」

「子供に雇われるのかよ、俺……あいだぁ!ごめんて!!いってえ!!」

「リーネ、膝はやめてあげた方が……」


 粉砕された扉を乗り越えるようにして自警部隊の防護スーツを身に纏った少年が一人入ってくる、ファンタジーで出てくるような巨大な大槍を担いで真っ直ぐに此方に近付いてくる。そして少年の後ろから、更にぞろぞろと3人ほどが情け容赦なく不法侵入してきた。


「ちょーっと失礼致しますね、シンタニさん?」

「な、なん、なん!?」

「シズクについて聞きたいことがあるので」


 その名前に驚き竦みあがってしまった新谷の胸ぐらを少年は掴むと、口端をつり上げる。その笑みと口調の軽さに反してその瞳はとてつもなく鋭かった。呼吸が止まるような冷たい目が、新谷を射貫き、彼の身体を硬直させた。

 

「いろいろと、手伝ってもらうぞ。オッサン」


 世界が滅びるその最中、ウルは動いていた。

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