第7章 全校集会

 月に一度の全校集会。体育館は人いきれでうんざりするほどだ。

 校長の挨拶の後に、壇上に先輩が現れる。先輩は一礼すると、流れるようにな挨拶をしていく。校長の時よりずっと生徒が真剣に聞いている。


「本来であれば、生徒会長としての挨拶はこれで終わりですが、最後に皆さんにお伝えしたいことがあります。私がパパ活をしているという悪意ある噂ですが、ここで明確に否定させていただきます。私が放課後、会っていたのは叔父です。これは先生方にも同様の返答をさせて頂きましたし、証明する方法もあります。それでも信用できない方もいらっしゃるかもしれませんが、私には現在、お付き合いさせて頂いている方がいるのです。その人は二年一組の吉井明君です。私は恋人を裏切るような真似はいたしません。以上です」


 生徒の間に一斉にざわめきが走る。教師が静かにと叫ぶが、ざわめきが収まらない。

 突然の嵐を起こした先輩は壇上から降りながら俺を見て、それからいたずらっぽく笑うのだった。


 どう考えてもやりすぎですから――――――――――!!



「……今日の分の電子化終わりました」

「ありがとう。もう少し待って。あともう少しで終わるから。そうしたら、帰りましょう」

「……はい」

「あら、何か怒ってるみたいね」


 放課後の生徒会。俺たちは二人きり。

 今朝の全校集会のこともあるのか、役員たちは気を遣ってくれたのか、やたらと俺たちを二人きりにしようとしてくれているみたいだった。


「怒ってはいません」

「怒ってはいないけど、不満はあるみたいね。どうして?」

「だって、あんな全校生徒の前で……」

「噂を払拭するべきと言ってくれたのは、あなたじゃない」

「でも! あれは……お陰で、先生にまで本当なのかって言われるし、他の生徒からは質問攻めに合うし」

「私も同じよ。何を言われても、胸を張ればいいんじゃない。悪いことなんてしていないんだから」

「透子さんみたいにはまだ振る舞えませんよ……」

「仕方ないわね。明、そこに座りなさい」

「……はい」

「――よしよし」


 先輩はいつかの時みたいに俺の頭を撫でながら、抱きしめてくれる。


「透子さん……。俺、子どもじゃないんですけど」

「あら。いじけてる姿はまさに子どもだったわよ? 嫌ならやめるけれど」

「……嫌じゃ、ないです」

「素直は美徳よ。ふふ。でもそうね、ごめんなさい。確かに全校集会のことは事前に言っておくべきだったわね」

「そうです」

「きっと私は舞い上がってるのね。あなたと付き合うことが出来て、嬉しすぎるんだと思うわ」

「と、透子さん……。そんな言葉、ずるいですよ……」

「ほら、明、笑って。好きな人に笑ってもらうのが嬉しいのは、あなただけじゃないのよ」


 透子さんがそっと唇を重ねてくる。


「透子さん」

「さあ、帰りましょう」

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恋を知らない女帝はあなただけに微笑む 魚谷 @URYO

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