かすあり

@kar060820

第1話

時間は深夜で日付が変わって間もない頃だった。

寝苦しくて蔵から出て少し風に当たっていた時だった。

香澄が家に来た。

あまりにも不自然な時間で、声をかけようとしたが、手にはなにか持ってるようで、遠くからでもいつもとは違う不気味なオーラを放っていた。

声を掛けずにそのまま隠れて観察していた。

その後香澄に着いてくように足音を殺して歩いた。

ずっと何か言っているようだったがなんと言ってるかまでは分からなかった。

少し掠れた声でコツコツという足音と混ざって少し不快になる。

薄暗い私の家の廊下を歩く香澄。

香澄が向かったのは私のおばあちゃんの部屋だった。

ドアの少し空いた隙間から覗いてみると手に持っていた何かをおばあちゃんに振りかざそうとしていた。

「ごめんね、おばあちゃん」

掠れた声で小さく呟いて、両手で持っていた物を上に持ち上げたと思った瞬間、グサッと言う音と何かが吹き出るような音に包まれた。

怖くて目を瞑っていたから何をしていたか分からないが、大体予想は着いた。

その後生臭い匂いに囲まれて瞑っていた目を開けた。

隙間から見ていた私を知っていたかのように香澄がこちらを見ていた。

「有咲…もしかして、いまの、みた?」

顔と服が赤く染って居た香澄に問いかけられる。

怖くて仕方なくて蔵に向かって全力で走った。

蔵には鍵をかけて、誰も入れないようにした。

しばらくすると、


「キ…ラ…キ…ラ…ヒ…カ…ル……」


何回も聞いたことのある曲と声が足音に合わせてこっちに向かってくる。

少し掠れた声で砂利を踏む音と混ざって少し不快になる。

蔵の入口近くで足音と歌は止まり、耳を澄ます。

いつもの香澄と同じ元気なあの声で急に話しかけてきた。


「有咲!いる??」


あれはなんだったんだろうと思った。

香澄の問いかけには応じずにそのまま隠れてた。

また少し経つと、


「有咲いるんでしょ?一緒に歌おうよ!!」


と誘う。

怖くなって気づいたら泣いていた。

耳を塞いで小さく震えていた。

ふと、頭をよぎったことがある。

あの分厚い蔵の扉越しからだとだいぶ声が籠るはずなのに、なぜか少しだけクリアに聞こえた気がする。

その事実に気づいた私は恐る恐る後ろを振り返ることにした。

心臓が張り裂けそうなぐらいバクバクしている。

自分の鼓動が聞こえる。

早くなる鼓動とゆっくり振り返る私。

思い切って後ろを振り返り目を開ける。

振り返った先には、香澄はいなかった。


「なんだよ…夢か」


そう呟いてベッドに戻ることにした。

戻ろうとした時、あのコツコツという音と蚊のような声で歌う声が聞こえた。


「キ…ラ…キ…ラ…ヒ…カ…ル……」


後ろを振り返るがやはり香澄はいない。

そのまあ歩き続けたがまた歌声は聞こえる


「オ…ソ…ラ…ノ…ホ…シ…ヨ……」


段々と大きくなっているのがわかった。

少し早足で歩き後ろを振り返る。

やはり香澄はいない。

だけど、私の早足に着いてくる…いや、それを追い越すように歌声はどんどんと大きくなる。


「ミ…ン…ナ…ノ…ウ…タ…ガ……」


また早くなる鼓動、安心できる場所はないかと探し回る。


「ト…ド…ク…ト…イ…イ…ナ……」


もう声的には真後ろにいた。

思い切って止まって後ろを振り返る。

汗と涙でビシャビシャの私と早い胸の鼓動。

自分の鼓動以外聞こえなかった。

周りを見渡すが、人影らしきものは見当たらない。

すると、後ろからポンッと肩を叩かれた。

不意にされ、腰が抜けた。

膝から崩れ落ち、動けなかった。

コツコツと言う足音が後ろからする。

私の横を何かが通り過ぎた。

崩れ落ちた私の前で立ち止まり、顔を上げた。

目の前にはさっきの赤く染った香澄が右手にナイフのようなものを持って笑いながらこっちを見ていた。

香澄はしゃがみ、私と同じ目線になる。

泣いていた私の涙を拭いて抱きしめた。


「ごめんね…有咲……ごめん、なさい……」


泣きそうな声で謝ってきた。恐る恐る抱き返して堪えていた涙を私も流す。

安堵と恐怖に対して。


「だいすきだよ。だから、これからも、いっしょだよ。ずっと、ずっといっしょにいようね」


香澄は抱いていた手を離して、立ち上がった。

すると右手のナイフを持ち上げて私のことを狙った。

まだ身体は動かなかった。

逃げようとしても上手く動かない。

ああ、もう私は終わりなんだな。

覚悟して香澄を見つめて話しかける。


「香澄。私も大好きだぞ。もちろん、これからずっと一緒だ」


最後に笑ってみた。

すると、ぽたぽたと何かが垂れてきた。

それは紛れもなく香澄の涙だった。

身体は震えていて崩れ落ちそうだった。

だけど、何かを決心したのか掠れた声でごめんねと呟きナイフを振りかざした。


「……っは!」


一瞬なにがあったのか分からなかったが、飛び起きたので夢だとわかった。

汗でびしょびしょで泣いていた。


「最低だ、私」


あんな夢みるなんて。

スマホで時間を確認してみる。

時間は日付変わったばかりだった。

そこでふとさっきの夢を思い出す。

ぼんやりだけど、確かあの夢も…


「まさか…な」


また目を瞑って眠りに入ろうとした。

しばらくすると、


「有咲」


聞きなれた声で私のことを呼ばれた。

目を開けてみると笑った香澄がこっちを見ていた。

それより先の記憶は、私にはなかった。

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