第23話 エンディング
下駄箱の前で、千歳は三上と出くわした。
「あれ三上、先帰ったんじゃないの?」
「先生に用事押し付けられて遅くなった。そっちは今から?」
「そうそう」
二人で昇降口を出る。方向が同じなので、途中まで一緒に行くことにした。
歩きながら、三上が話を切り出す。
「お前、調子どうなの」
「あぁ……研究部の人に付けてもらった義手、調子いいよ」
千歳は右手を振って見せた。そこには、真っ黒な義手が収まっている。
信じられないことに、あれから本当に帰って来られた。
体の認識範囲拡張の方も成功したようで、普通に今まで通り生活ができている。
変質していた体も諧に人間へ戻してもらって問題なかったが、回復能力を使っても無くなった腕は再生しなかった。それは多分残してきた右腕がまだつながっていると判定されているからだろう。
とはいえ製造系の能力者に作ってもらった義手はかなりスペックが高く違和感がないし、特に不便を感じたことはない。
「他のところは?」
「あー、全然変わりない。体が白くなったのも治ったし」
帰ってきた直後は右肩のあたりが白っぽかったが諧に能力を使ってもらったら一瞬で治った。あとは魂が体になくて別の場所にあったりするらしいのだが、そもそも魂の存在を意識したことがないので無くなったことすらよくわからない。
他の主人公たちの能力も無くなっていないので、神の引継ぎの方もうまくいったようだ。
一応、神になったはずなのに普通に暮らしている。それがなんだかおかしくて嬉しい。
「そうか。ならよかった」
「三上くん、なんかずっと怒ってない?」
表情に変化はないが、なんとなくずっと当たりが強い気がしていた。
「怒ってない。……自分が不甲斐ないだけだ。全部見逃した」
「いや、それはずっと断ってたじゃん」
語り部として宿敵戦はなんとしても見たかったらしい。
でもどう考えても危険すぎるので事前に拒否していたのだ。
「無理矢理にでもついていくつもりだった」
「おい」
いつも慎重派なのにこういう時だけアグレッシブすぎる。
「まぁ、ついていったら二人の邪魔するところだったし、結果的に行かない方がよかっただろうな。それでも自分で見て書きたかったんだよ」
「そっかー。完成したら読ませてね」
「やだ」
即答だった。
「俺の話なのに!?」
「守秘義務あるから。誰にも見せちゃいけないから」
「でも俺は全部知ってるんだからいいじゃん!」
その後あらゆる手段を使って説得しようとしたのだがことごとく失敗した。
目的地であるファストフード店の前に着き、三上と別れる。
千歳は扉の前で立ち止まった。
宿敵と戦ったあの日以来、彼女とはタイミングが合わなくて会えていなかった。スマホで連絡して約束をとりつけ、ようやく今日会うことができる。
諧は宿敵戦を攻略し、千歳は神になりはしたがこうして帰ってきて日常生活を送れている。
二人でつかんだハッピーエンド。
しかし当たり前の話だがエンディング後も人生は続く。それでも、二人でなら幸せをつかみ続けることができると確信していた。
大切な人の幸せを、祈るのではなく二人で作れる。それができることが幸せなのだと気づいた。
そして千歳は店内に足を踏み入れる。
主人公はハッピーエンドをつかめない 真樹 @masaki1209
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