chapter1──強欲な女──end
「結局、あの客……どうしたんだよ」
後日。男狂いの客の経緯を尋ねる涙。ヴァーミャは、退屈そうに窓の外を眺めつつ、口を開いた。
「彼女は目を覚まさないよ。永遠、とは言ったけど……夢の中で生き続けて、長くて十年だろう」
告げた口を閉ざし、玉座の肘掛けにもたれ掛かる。窓の外から外れた彼女の視線は、中央の広い居間の天井──眩く光るシャンデリア、そのクリスタル部位に注がれた。
クリスタルは、客の見ている夢──彼女が美男に囲まれ、贅沢な暮らしをしている様が映し出されていた。
自分の主の答えに目を丸くし、鳩が豆鉄砲を食らった様な表情をする涙。
「短くねェか?彼奴の寿命は七十年あっただろ?」
「魂の価値が下がり過ぎたんだよ。彼女の欲に釣り合わない程にね。更には……よくやってくれたものだ」
床についていた足を、もたれかかっていた肘掛とは反対側の肘掛に乗せ、玉座の上でだらしなく寝転ぶヴァーミャ。表情は、幾分か不機嫌の色に染まっている。
「よくやった、だぁ?何があったんだよ」
「……ホスト狂であった彼女は、負の財産として多額の借金を背負っていた。それを私達は肩代わりさせられたのだよ」
「はぁ!?」
目をひんむき、上体を跳ね上げて起こした涙。そんな様子の彼を一瞥した後、ヴァーミャは腕で自分の目を覆い、言葉を続けた。
「その分、余分に寿命を頂戴しているさ、勿論。本来なら二十年見られた筈だが、残り十年分は借金返済の肩代わり代だ」
「支払いは?」
「無論、終えている。この屋敷を買う位だ。金に困っている訳が無い」
ヴァーミャほ重い溜息を吐き、「魂の価値が低い人間は嫌なものだ」と呟く。そして、そっと目から腕を退かし、玉座に座り直した。
「魂の価値……な……」
「嗚呼。善人でも悪人でも無い、純粋な魂……所詮、善悪に染まれば欲に呑まれ魂の価値は暴落する」
しばしの沈黙。思い当たる節は幾つでも。ヴァーミャは目を閉じて静かに物思いに耽ける。
涙は、この沈黙が余り好きではなかった。
「……腹、減らねぇ?」
嫌いな沈黙を破る様に、彼は努めて明るい語調で尋ねる。目を開けたヴァーミャは、ニコリと笑って玉座から立ち上がる。
「今日はビーフシチューの気分だ」
「!……あぁ」
返答に、一つ、笑みが零れる。軽く返事をした後、涙は厨房へと向かった。
──彼女の視線の先はまた、窓の外に移動した。
「……父君……貴方も懲りない御人だ……」
遠くで異形の傭兵が何かを探して飛び回るのを知っているのは、ヴァーミャだけだった。
夢は寿命か金で買え 創物 語 (つくりもの かたる) @Ririth2910
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