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「どないしよー」
大浴場につかりながら、楽野は顔を覆った。
「緊張してる?」
隣には一二三がいた。
「してる。とてもしてる」
「今まで何回も試合出たっしょ」
「途中からね」
「なんとかは高校たいしたことないって。ばーんとぶち抜こう」
楽野はあいまいな笑顔を浮かべた。
この一年間、博多東の作戦は一貫している。強豪校相手に、手の内を明かさないようにしてきた。合宿では多くの高校が集まる菅平に行かなかったし、強豪校との練習試合も行わなかった。総合先端未来創世との再戦は予定外だったが、ライバル校でない以上ピンチとは思っていなかった。
そんな中で楽野が出るとはどういうことか。それは、レギュラーの動きを隠すためである。絶対的レギュラーである一二三が出るのとは、まったくわけが違う。
「俺も日本代表とかさ、ワールドカップとかさ、そういうのを目指したいよ」
「え、目指せるじゃん」
「生まれた星が違うんだ」
楽野は、湯船に口まで入った。
「やっほー、今日の試合勝ちましたー」
原院がスマホに向かって手を振っていた。
「あれ、何ですか」
根田が、鷲川に尋ねた。二人は同じプロップである。
「彼女に動画送るんだって」
「えー、初めて聞いたっす」
「オンラインゲームで出会ったらしい」
「そんなこと本当にあるんですね」
「いやほんとにどうなってるんだよ」
「明日も活躍するからねー」
根田は、原院の様子をうらやましそうに見ていた。
彼女がいることももちろん羨望の対象だったが、なにより原院は試合でも活躍していたのである。根田は、登録メンバーにも入っていなかった。そして、ベンチ外仲間の相模までもが、今日は試合に出たのだ。
「やばい顔してるな」
「え、俺ですか?」
「ああ。まあ、いろいろとわかるよ。でもなあ、来年は俺の横で頑張るのはお前なのよ。その時のために、花園の空気めいいっぱい吸っとけ」
プロップは四人いるが、酒井と近堂は三年生だった。この大会が終われば、引退する。
「先輩、さすがですね」
「何が?」
「彼女が欲しいよりも、ラグビーの方が悔しいのわかってくれました」
「まあ……彼女がいる苦労というのもあるし」
「え、鷲田先輩……」
「俺じゃなくてね。その時が来たら言うよ」
鷲田は天井を見つめた。根田は、それ以上の追及はしなかった。
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