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「本当に来たんだね、って今日思った」
森田が言うと、荒山は夜空を見上げた。
「正直、無理かと思ってた」
「いやあ、正直ね」
宿の近く、公園のベンチに二人は座っていた。こっそりと話すつもりだったのだが、そこには先客がいることを、二人は知らなかった。
「なんかドキドキするね」
カルアは言った。
「どういう関係なんだろう」
テイラーは目を凝らした。
二人は象の形をした遊具の中にいた。そこで話していたところ、後から先輩たちが来たのである。
「鹿沢さんはすごいよ。あの人がいなかったら無理だった」
「前の監督、駄目だったね」
「合ってなかったのかな、俺らと」
「そうね。それに、一年生が頑張ってくれた」
「犬伏とか、助けてもらったよなあ」
テイラーがカルアのわき腹を小突く。
「金田も西木も。今日は相模も頑張ってた。……あと、テイラーだ。みんな、楽しそうにやってる」
「あんたと宝田、一年の時は苦しそうだったよね」
「そうだったかも」
「房総学院行くの?」
静寂が訪れた。カルアとテイラーは、少し身を乗り出した。
「……俺はね」
「宝田は違うんだ」
「ああ。初めて別れるね」
「ふふ」
荒山は立ち上がった。
「だから、すごく大事に思ってる。最後になるかもしれない、次の試合」
「そっか。あ、私は
「え、じゃあ」
「大学ではプレーヤーに戻る。やっぱ、やりたいなって」
「そっか」
森田も立ち上がった。そして、公園を去っていった。
「どう思う、犬伏?」
「森田さんなら、活躍できると思うなあ」
「そうじゃなくてさ、二人の関係」
「え」
「お前なー、あれはどう見てもいい関係だろ」
「うーん」
カルアはそういうことには疎かったが、直感的にあまりロマンチックには感じなかった。どちらかというと、友人に覚悟を伝え合う会話のように聞こえていた。
「帰って先輩に聞いてみるか」
「誰に?」
「口が軽そうなのは……芹川さんだな」
二人は先輩たちに追いつかないように、しばらくしてから宿に戻った。
「あー、もう別れてる」
芹川は言った。
「えっ」
テイラーは目を白黒させた。
「一年の時。まあ、かっこよかったもんな。俺たちの学年で特に目立ってたし。
「そ、そうなんですか。なんで別れたんですか?」
「なんでだろうなあ。荒山が気づかいとかできなかったのかなあ。宝田に嫉妬したのかなあ。詳しいことまでは知らない。え、テイラー愛実那ちゃん狙ってるの?」
「あいやいやそういうわけではなくて。なんとなく二人は仲いいなあと思って」
「別れてからの方が自然な感じだよな。男と女というより、やっぱ仲間なのかな」
「そんなもんですか」
「わからん。実はドロドロしてるのかも。そういうのはっきりとは聞かないからな。宝田なら知ってるだろうけど」
「いやあ、宝田さんに聞くのはちょっと」
「はっはっは。そうだよな」
テイラーは思った。自分は多分、付き合っても別れてもみんなに隠し通すことはできない。部内で誰かと喧嘩しても、すぐに悟られてしまうだろう。
そういう意味でも、主将はすごい。尊敬の念を確認するとともに、いつかどうにかして別れた原因を聞いてみたいと思わずにはいられなかった。
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