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「あが、あがが」

 ベンチでテイラーがうなっていた。

 スクラムハーフが交代してからの総合先端未来創世高校は、とても流れがよかった。相模の拙さも、そんなに目立っていない。

「テイラー君もきっちりこなしてたよ」

「ありがとう、犬伏。でもわかってるんだ、荒山さんはそういう次元じゃないって」

 後ろで、星野もうなずいていた。

 杣山高校が、大量にメンバーを交代させる。先発で出ていなかった上級生たちが入ってきた。

「思い出、か」

 金田がつぶやいた。テイラーとカルアには、あまり響かない言葉だった。

 金田は中学の時から絶対的なレギュラーだったが、途中で交代させられた経験はある。先輩たちが卒業する時だ。先ほど入った三年生たちのように、これが最後になるかもしれないときは、先輩たちに花道を用意することになる。

 杣山高校は、覚悟を決めたのだ。

「そっか。交代とか経験ないもんな」

 カルアは、自分には理解できないものについて理解した。

 中学生の時のチームはいつも人数ギリギリで、カルアが出なければ話にならなかった。そのため、試合途中で退くという経験もなかったし、途中から出るということもなかった。

 もしこのままチームが負ければ、自分は花園での試合を経験せずに帰るのだ。監督は三年生たちをグラウンドに送ったが、一、二年生がまたここに来られる保証はない。

 どちらかの高校は、思い出もここで終わる。

 カルアが見つめる中、プロップの酒井がトライを決めた。宝田がキックも決め、36-10。残りは10分。勝敗は、ほぼ決まった。



試合終了

総合先端未来創世高校36-15杣山高校



 杣山高校がトライを決め、試合は終了した。

 点差は21点。総合先端未来創世高校が無難に勝利した。

「カルアちゃん、金田ちゃん、すまないねえ。先に全国の勝利の味知ってしまったよ」

「次は西木絶対出してもらえないからいいよ」

「ひどい金田ちゃん」

 皆勝利に喜んでいたが、どこか喜びきれていない顔をしていた。次の相手はシード校であり、あの東博多高校なのである。

「とりあえず、おめでとう」

「おめでとー!」

 鹿沢と森田が、親指を突き立てた。選手たちが、それぞれにうなずいた。

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