10

選手交代

瀬上(STB 2)→二宮(STB 2)



「あ、僕移動?」

「いや、そのままだ」

 カルアのもとにやってきた二宮は、両手を前に出した。

「え、二宮先輩は?」

「そのままセンターに入る。お前がハーフに入るときは、スタンドオフになる」

 カルアがボールを取りに行くと、スタンドオフが不在になる。その時は二宮が代わりになれるようにしたのだ。

「えーと、テイラー君、二人で拾っていくよ!」

「オッケー!」

 鹿沢監督は、「ダブルスクラムハーフ」をより生かすための戦術を考えた。現状では、ボール出しをカルアがしたときはスタンドオフが不在になる。テイラーのいる方を主軸にするとバレてしまっては、あまり意味がない。そこでもう一人のスタンドオフを置くことによって、カルアから後ろへの展開も選択肢に入れておく。

 センターを一人減らすわけで、リスクも大きい。二宮がセンターの動きをできないことはないだろうが、上手いわけではない。ただ、鹿沢はこの後、バックスで回してトライするイメージが抱けていなかった。

 とにかく錯乱させる。そしてカルアに蹴らせる。そういう覚悟が、交代に結び付いた。

 基本的には、テイラーがボールを出した。カルアの近くの場合だけ、カルアがボールを出す。そして常に、そのボールは二宮が受ける。スクラムハーフとしての判断はしないでいいようにである。

 テイラーもカルアも、特別なことはしなかった。ただボールを出して、パスをする。バックスに回さずに、基本フォワードで勝負する。

 押し込むことはできなかったが、ボールを保持し続けることができた。リードしているはずの宮理の選手たちが、焦り始める。これまでずっと、自分たちの方がボールをコントロールしてきた。ただ時間を経過させればいい方のチームが、だんだんと追い詰められていったのである。

「オフサイド!」

 笛が吹かれた。ついに宮理にペナルティが出た。

 キャプテン代行の宝田は、迷わずコールポストを指さした。

 カルアが、ボールをセットして目を閉じる。ドロップゴールと違い、時間は十分にある。ボールが引き込まれていくイメージを膨らませる。

 足が振り上げられ、そして振りぬかれる。ボールはまっすぐに、直線を描いて飛んで行った。

 キック成功。さらに、得点が加わる。点差は6点、ついに1トライ1ゴール圏内に入ってきた。



途中経過(後半14分)

総合先端未来創世高校9-15宮理

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る