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「えーっ」
テイラーは思わず声を上げた。ボールを追いかけていったら、先にカルアが駆け寄ってボールを出してしまったのである。
確かに出足が遅れた。しかしスクラムハーフを待たないなんてことがあっていいのだろうか。
いや、ついさっきそういう風景を見た気がする。
そうだ、宮理がしたのだ。カルアはそれをまねたのか?
目の前に拠点ができた。今度はすぐにボールを出せる。そして、カルアが大きく下がっていくのが見えた。
「事前に相談しといてよっ」
カルアにパスが渡った。時間は十分にある。
ボールが地面にバウンドする。宮理の選手はそれを予想していなかったので、邪魔しに行く者もいなかった。
蹴られたボールが、ぐんぐんと伸びていく。だんだんと高度を上げ、ゴールポストの間を抜け、フェンスの上段に当たった。
ドロップゴール成功。総合先端未来創世に3点が入り、6-15となった。
「ナイス犬伏」
「いや、テイラー君こそ。いきなり思い付きでやったのにありがとう」
「大丈夫、俺天才だから」
二人は拳を合わせた。
「そういう意味じゃなかったんだけどなあ」
思わず鹿沢は苦笑して、そのあとにっこりと笑った。
「テイラーに何かあったとき」とは、テイラーが出られなくなった時ということだった。しかしカルアは、テイラーの様子がおかしいのを見て、みずからスクラムハーフの役割をこなしたのだ。
しかも、テイラーの近くにボールを出し、下がって受けるとることろでドロップキックまでの時間を作った。かなり考えられた動きだった。
「時間、足りますかね……」
森田は不安そうだった。点差は9点。1トライ1ゴールでは追いつけない。残りは、あと20分。
「大丈夫だ。空気が変わった」
流れ、というものがある。それは単に「感じ」ではない。カルアのドロップゴール成功により、相手は警戒することが増えた。フリーでキックさせてはいけないということは、カルアに対して早めに詰めなければならないということだ。それだけで、戦い方は崩れる。
実は鹿沢は試合前のカルアに、「前半はドロップゴールを狙うな」と言ってあった。後半から対策される恐れがあったのである。しかし今は、試合の流れの中でどうにかしなければならない。全員が意思統一するは大変だろう。
そういうもろもろを含めての「空気」なのである。
「よし、畳みかけるぞ」
監督は、選手交代を告げた。
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