8

選手交代

酒井(PR 3)→近堂(PR 3)

荒山(SH 3)→テイラー(SH 1)



 ロボットのような選手が一人、フィールドに入っていった。顔色はよくなったものの、テイラーの動きはガチガチだった。

「テイラー、大丈夫か?」

 センターの鶴が声をかけると、首をギギギと動かすテイラー。

「俺は何をすればいいんでしょう?」

「ボールを取り出してパスしてくれ」

「わかりました」

「大丈夫じゃないな」

「テイラー、迷ったら犬伏にパスしろ。困ったら芹川さんに頼れ」

 そう言ったのは金田である。

「わかりました」

「……右手を左足首」

「え?」

「タッチ」

「は、はいっ」

「今度は左手を右足首」

「うい」

「軽くジャンプ」

「はっ」

「動きはいいな。さ、行くぞ」

 金田は、自分の持ち場へと歩いていった。一部始終を見ていたカルアは、「保護者だ」とつぶやいた。



「荒山が下がった?」

 蔭原は唇を尖らせた。

 ウイングに回してでも出場させてきた荒山がいなくなった。そして、テイラーとは誰だ?

 名前と見た目はうまいっぽいが、顔つきはもう緊張で意識が飛びそうに見える。昨年は見なかったから一年ではないか。

 役者がそろっていたからこそ、前半は耐え抜いたのではないか。今わざわざ替えるということは……怪我か。

 今日は、ベンチに星野も入っていない。前試合途中で交代しており、アクシデントがあったのだろう。それでも控えのスクラムハーフがいるのはさすがだが、レベルは落ちるだろう。

 近堂も重たい選手だが、上手さはない。戦力は、前半より落ちる。

 一気に攻め切る。蔭原は指示を出した。「あれ」を使うと。

 後半が始まり、試合が進んでいく。宮理は素早くモールを組んだ。総合先端未来創世は近堂を中心に、抑え込みにかかる。モールは前進し続けなければならない。二回立ち止まったら、ボールを出さなければならない。今回は非常によく対策を練られており、以前のように続けて得点するようなシーンは生まれていない。

「入れ入れ!」

 蔭原の言葉でバックスも次々にモールに加わった。スクラムハーフも、である。実にフルバックを除く14人が参加するかたまりが出来上がった。本来は全国大会で見せる予定の、宮理の練ってきた新たな作戦だった。

 相手も人数を加えて抑え込まざるを得ない。そして前進が止められる直前に、モールがぱっと花開いた。ボールがウイングへと渡り、ほぼ真横へと走っていく。総合先端未来創世もそれを追うが、捕まえきれない。フルバックの宝田が、必死に追う。しかしウイングは、角に飛び込むようにしてトライした。

 位置が悪く、さすがにキックは外れた。しかし、後半早々得点。15-3。リードは広がった。

 ただ、意外にも総合先端未来創世の選手たちは落ち着いていた。

「12点だぞ」

 蔭原は、眉間にしわを寄せた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る