7

「いけるかもしれない」

 ぼそ、と鹿沢が言った。

「この試合ですか?」

 森田が聞いた。

「まあそうだが……前半だ」

「このまま?」

「2トライは覚悟していた。14点をどう返すかの戦いだと。ただ、宮理は手を打ってこなかった。前面突破を目指しているうちにあと5分だ」

 球場全体がざわつき始めていた。下馬評では、宮理の圧勝だった。しかし、1トライ後試合は動かず、10点差で総合先端未来創世は食らいついている。

 これまで県内では、宮理は圧勝しかしてこなかった。それは宮理に対して守り切るというチームがなかったからだ。もちろん、普通のチームなら突破されてしまうだろう。だが総合先端未来創世は、強いチームになっている。今はベストメンバーに近い。ウイングも経験して、視野の広がったスクラムハーフ、荒山。控えの悔しさも知って、慎重なプレーができているフルバック、宝田。酒井、近堂との三人で交代しながら出場することにより、余裕が生まれた鷲川。そして、戻ってきて元気にプレーしている松上。中学時代の悪評も、現在は先輩たちを尊重し、チームプレーに徹している金田。推薦組の5人が、きっちりと機能している。

 そして犬伏カルア。この不思議な選手は、チームの在り方をすら変えている。スタンドオフとしてはまだまだ成長段階だが、キック力だけでチームに不可欠な存在となっている。もはや、誰も宝田にキッカーを任せるべきだとは考えていない。

 前回は宮理の思うようにやられていた。だが、今は違う。東博多などとの対戦を経て、チームはレベルアップしている。モールにも、しっかり対処している。それは、鹿沢が繰り返し練習させてきたものだった。

 だが、点を取られている以上守るだけでは駄目だ。

 その時、笛が鳴った。宮理のペナルティだ。総合先端未来創世の陣内真ん中あたり。前半の残りは4分。

 荒山は、ゴールを指さした。宮理の選手が固まっていた。

 前回もカルアは、ペナルティキックを蹴っている。しかしその時よりも、はるかに遠い。プロでもなかなか見ない距離である。だが、カルアにとっては十分「セーフティな距離」だった。

 ボールが、まっすぐに飛んでいく。落ちない。むしろ浮上するように、楕円級はゴールポストの間を抜けていった。

 3-10。総合先端未来創世が初めて得点を入れ、7点差となった。

 そしてそのまま、前半は終了した。



「くそっ」

 善戦しているという充実感のある選手が多い中で、荒山は表情を険しくしていた。

「どうした」

 宝田が顔を覗く。

「限界が来た」

「足か」

「そうだ」

「……無理はするな」

 春先、無理をして試合に出場し続けた宝田は骨折をした。その後半年以上、試合に復帰できなかった。

「悔しいなあ」

「続きは、花園だ」

「ああ」

 荒山は座り込んで、靴を脱いだ。


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