6
前半15分。総合先端未来創世はなんとか7失点で耐えていた。とはいえ、ほとんどが守備の時間で反撃することができずにいた。
今もゴールラインぎりぎりでの攻防が続いている。すでに一度ペナルティを取られており、次に反則をすると認定トライとなるかもしれない。
早く折れろよ。蔭原は思っていた。これまで何度も、決勝で梅坂学院に勝ってきた。攻め合いが得意な相手に、攻めさせなかったのである。自分たちのやり方が封じられると、相手は焦っていつも以上のことをしようとしてくる。そこをさらに狙う。
宮理はそうやって県内で勝ってきたが、今日はまだそのパターンに入れずにいた。先制はしたものの、それ以降は「攻めさせられている」のだった。
何が変わったのか。宝田が戻ってきたからか。金田に希望を持ったのか。それとも……
総合先端未来創世の粘り強い守りが功を奏し、宮理からボールを奪った。インゴール内にいたカルアにボールが渡り、思い切りキックされる。ボールは宮理陣内に落ち、そのままラインを割らずに転がった。
一気に局面が動く。蔭原は舌打ちをした。そして思った。「このチームは、犬伏のチームだ」と。
花園に行く。それは、ラグビーをやっていたら誰もが憧れることだろう。ただ、県内においてはほぼ「宮理に行く」ことを意味していた。
宮理は県内大会を十連覇以上している。彼らのほかで優勝したチームは、すでに廃部となっている。宮理に勝利したことのあるチームは、県内に現存しないのである。
金田も、花園に対する憧れがあった。しかし、宮理から声がかからなかった。それどころか、他のチームからも誘いがなさそう、というのが周囲の見解だった。プレーの質が良くとも、言動の評判が悪い。そのことは本人も自覚していた。
受験して行くならどこか。宮理に行くのか。そんなことも考えた。全国を目指すならそうなのだが、そうすると榊と同じチームになる。それは嫌だった。同級生でナンバー1とされる選手。東嶺と相思相愛と言われながら、結局宮理を選んだ選手。
東嶺から誘われた時、迷いはなかった。榊の代わりだということもわかっていた。高校では、上手くやる。そう誓って入学した。
総合先端未来創世はとても強いチームというわけではなかったが、雰囲気がよかった。
ぶっきらぼうな自分に、強く当たる者もいなかった。ある程度自由にやらせてくれる。そして、常に先発メンバーに選ばれた。得点しても評価されず、時に選ばれなかった中学時代とは大違いだった。
このチームで全国に行きたい。金田はそう思っていた。
守備では持ち味が生かせない。なんとか攻撃に転じなければ。そう思っていた矢先だった。
笛が鳴らされた。認定トライを覚悟したが、それはなかった。そして宮理は、ペナルティキックを選んだ。
ゴール正面に近く、難なく決められる。0-10。
点は入れられたが、流れは一度切れた。トライを狙はなかったのはおそらく、相手にしてみれば8点以上が「セーフティリード」ということだろう。トライを決めても逆転できない。2本決められているとは考えていないのだ。
「そうはいかない」
金田は、気合を入れて再開の笛を待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます