決勝戦
1
「なんとか高校と、か」
朝、鏡を見ながら蔭原はつぶやいた。
水曜日。決勝戦の日曜日まではまだ遠い。だが、
梅坂学院以外、想定していなかった。東嶺はずっといいチームだったが、強敵という感じはしていなかった。
名前を変えて、監督・コーチが解任された。前回の試合でも、脅威は感じなかった。
だが、チームは変わっている。鹿沢、という監督が就任していた。聞いたことのない名前だったが、これまでにない戦法を採用している気がする。荒山をウイングに、瀬上をフランカーに。前の監督ならば、そんな大胆なことはしなかっただろう。
前回の対戦は、完勝だった。10点は取られたが、危なかった場面はない。
ただ、犬伏は不思議な存在だった。キックだけに特化した存在。10点のうち5点は彼のキックだ。
前よりも、苦戦するかもしれない。
蔭原は、力強く顔を洗った。
「大丈夫か」
グラウンドを走り終えた松上に、鹿沢が訪ねた。
「オッケーです」
「よし」
決勝進出が決まって以来、監督は毎日学校に来ている。給料が出るわけではない、ボランティアである。
「じゃちょっと全員集合―」
ポジション別に練習していたメンバーを鹿沢は呼び寄せた。
「ありがたいお言葉だー」
先頭で西木が陽気に言う。
「そうだ、ありがたいお言葉だ。いいか。今度の試合、普通にやったらお前たちの負けだ。地力はあきらかに宮理高校の方が上だ。ただし、勝ち目がないわけじゃない。宮理は接戦を経験していない。県予選や全国1回戦では危なげなく勝っている。だが、強豪校相手にはいいところなく負けている。相手の経験していない展開に持ち込めば、接戦の経験値はこちらが上だ」
鹿沢の言葉にうなずく部員が多かったが、浮かない顔をしている者もいた。金田もその一人である。
どうやって接戦に持ち込むんだ?
本来なら、そこを詰めるべきである。しかし鹿沢は、説明しない。
精神論に逃げる監督ではない。ということは、そもそも対策がないのではないか?
「あー? 細かい対策を求めている奴がいるな。今更守備が急にうまくなることはない。やれることをやる以上はない。ただ、リスクをおかして取りに行く必要はない。少なくとも14点差までは耐えろ」
14点差。2トライ2ゴール差。
それ以上開けば、逆転の目はないと言っている。金田も心の中で同意した。
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