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「どうしたものか」

 鹿沢には、笑顔がないままだった。

 一週間後、決勝戦がある。意識は、すでにそちらへと向いていた。

「監督、少しは喜びましょうよ」

「あ、ああ」

 森田が、鹿沢の顔を覗き込む。鹿沢は、少し笑った。

「初めてなんですよ、決勝」

「俺もだ」

「あら」

「ここまで来たら、絶対勝たせなきゃいかんから。緊張する」

 森田も笑った。



「いよいよ決勝かあ。変な感じだ」

 帰り道、荒山は宝田と歩いていた。

「春は絶望だったよな。榊も来なかったし」

「よなあ。でも、金田が良かったよな、あと、犬伏」

「ああ。今日もキックの差で勝ったようなもんだ」

 二人は立ち止った。視線の先に、中学校のグラウンドが見えた。二人の通っていた、北岡中学校だった。

「中学では負け知らずだったっけ」

「そうだったな。俺たちに鷲川もいたから」

「優勝、か」

 ボールがネットに当たる音がした。野球のボールだった。

「ラグビーやってんのかな」

「日曜は野球部の試合が多かったっけ。やってないんじゃね?」

 宝田は、口を押えた。泣きそうなのを。こらえていた。

「どした」

「次の試合は俺らしい。そう言われた」

「そうか」

「最後の試合にはしない」

「そうだね」

 二人は中学校を遠めに見ながら、歩き出した。 

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