11
「どうしたものか」
鹿沢には、笑顔がないままだった。
一週間後、決勝戦がある。意識は、すでにそちらへと向いていた。
「監督、少しは喜びましょうよ」
「あ、ああ」
森田が、鹿沢の顔を覗き込む。鹿沢は、少し笑った。
「初めてなんですよ、決勝」
「俺もだ」
「あら」
「ここまで来たら、絶対勝たせなきゃいかんから。緊張する」
森田も笑った。
「いよいよ決勝かあ。変な感じだ」
帰り道、荒山は宝田と歩いていた。
「春は絶望だったよな。榊も来なかったし」
「よなあ。でも、金田が良かったよな、あと、犬伏」
「ああ。今日もキックの差で勝ったようなもんだ」
二人は立ち止った。視線の先に、中学校のグラウンドが見えた。二人の通っていた、北岡中学校だった。
「中学では負け知らずだったっけ」
「そうだったな。俺たちに鷲川もいたから」
「優勝、か」
ボールがネットに当たる音がした。野球のボールだった。
「ラグビーやってんのかな」
「日曜は野球部の試合が多かったっけ。やってないんじゃね?」
宝田は、口を押えた。泣きそうなのを。こらえていた。
「どした」
「次の試合は俺らしい。そう言われた」
「そうか」
「最後の試合にはしない」
「そうだね」
二人は中学校を遠めに見ながら、歩き出した。
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