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実のところ、後半はスタンドオフから外されると思っていた。
大事な試合。同点という状況。スクラムハーフに戻った荒山。その中では、二宮の方がスタンドオフにふさわしいと思ったのだ
ベンチに戻るか、ポジションチェンジかはわからない。動きがあるはずだと思った。
けれども、変わって入ったのはプロップの鷲川だけだった。カルアは、スタンドオフを任され続けたのだ。
勝つつもりではいる。けれども、負ければこのチームで戦うのは最後になる。今後のチームのことを考えたら、自分はスタンドオフでない方がいい、と考えることがあった。スタンドオフには二宮がいて、フルバックには能代がいる。部を支えていくためには、別の場所でレギュラーを目指すべきではないか。
けれども、監督は自分に任せるらしいのだ。キックしかとりえのない自分に。
一人だったら、逃げ出していたかもしれない。元々、ラグビー部には入るつもりがなかったのだ。しかし、今は多くの仲間たちがいる。西木をはじめ、同級生たちはとても仲良くしてくれる。金田は普段はぶっきらぼうだが、誘えば付き合ってくれる。そして試合中、いつも近くにいてくれる。時にきついアドバイスもあるが、それは自分のプレーを見てくれているからでもある。
現在は、梅坂学院の猛攻中だ。やはり、攻めが重たい。決して話されず、攻め続けるのが梅坂学院の持ち味だ。だからこそ、断ち切らなければならない。
耐えろ。
耐えろ。
カルアは歯を食いしばって守った。みんな歯を食いしばって守った。
それでも、梅坂学院は越えてきた。真正面から押し切って、トライ。キックも決まり、24-24。
この展開はまずい、とカルアは気が付いていた。同点ではあるものの、トライの数で言えば3本と4本、負けているのである。規定で同点の場合、トライ数の多い方が勝利となる。つまりこのまま追いつかれ続けると、勝利できないのだ。
ペナルティキックなどで得点しても、2回で6点。それに対してトライ後にキックが決まると7点。どう点数を重ねても、追い詰められている状態に変わりはない。8点以上の差をつけなければ、安心できない。
そのための作戦は? カルアは荒山に視線を向けた。
もちろん荒山も気が付いていた。このままでは負ける。
梅坂学院は、簡単に振り切れる相手ではない。何度得点しても、追いついてくる。攻めをしのぐ決定打が見つかったわけでもない。
俺たちは挑戦者だ。ベスト4の壁に挑んでいるんだ。
荒山は言った。
「犬伏、ラインアウトで行く」
「はい」
試合が再開され、総合先端未来創世陣内にボールが蹴り込まれた。少しの攻防ののち、カルアにボールが渡る。一度大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出した。
カルアの蹴ったボールは、大きく飛んで、ラインを割った。相手ボールのラインアウトだ。
「頼んだぞ!」
荒山はフォワード陣に声をかけた。
松上がリフトされ、大きく空に突き出された。しかしボールは、一番前の選手に投げられていた。目論見は外れた。
再び攻防があり、カルアにボールが回ってきた。カルアは再度、ボールを蹴り出す。ただ陣地を稼ぐキックではない。ラインアウトでボールを奪いに行くという、明確な作戦のもとにそうしていたのだ。
相手にボールを渡すので、リスクのある作戦だった。しかしリスクを取らなければ勝てない、荒山はそう考えていたし、仲間たちもその意図をくみ取っていた。
梅坂学院の選手がリフトされ、手を伸ばす。しかしボールはその上を抜けていった。
荒山がボールをつかむ。目の前には小茂田がいた。フォワード陣はラインアウトから戻ってくる途中である。
「行く」
「行かせない」
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