6
選手交代
近堂(PR 3)→鷲川(PR 2)
後半になり、鷲川がフィールドに入ってきた。気合十分だった。
単に出番に飢えていた、だけではない。彼には、推薦入学者としての意地があった。今日は、宝田と松上も試合に出ていない。本来部を支えなければいけないメンバーが、三人もベンチにいたのである。
前半の展開を見るに、梅坂学院はフォワードである程度押し切ってくるつもりだ。ただでさえ、いつも出ていた松上よりも瀬上は軽い。それに加えて、最も重い近堂がベンチに下がった。それを見て相手は、前半以上にフォワード勝負で来ると考えられた。
だが、鷲川がまず見たのは別の光景だった。本来能代がいるはずの場所に、カルアがいた。スタンドオフがフルバックの位置に入ることはあるが、キックオフからその形をとるのは珍しいと思った。能代はスタンドオフの位置にいるわけではない。
ボールは深くまで蹴り込まれた。猛然とカルアが走り込んでキャッチする。そして、ボールを持ったままカルアは走った。味方さえも蹴ると思っていたので、多くの選手は面食らっていた。しかしそんな中、荒山は迷わず動いていた。倒されたカルアからボールを受け取り、能代へとパスをする。
「予定通りだったのか……」
能代が前に出ていたのは、ここで攻撃参加するためだったのだ。
攻めの枚数を確保する。確かに有効な作戦だが……今現在は後ろががら空きである。鷲川はボールのあるブロックに参加していった。絶対にボールを奪われるわけにはいかない。
金田にボールが渡る。能代は後ろへと戻っていった。金田を警戒していた相手は、ダブルタックルの姿勢だ。金田はさっと右腕で後ろにパスをした。そこにはカルアがいた。目の前が開けていた。カルアは走った。梅坂学院のディフェンスが追いすがる。相手の方が足が速く、追いつかれそうだった。
「鷲川先輩!」
カルアのパスが、鷲川に渡った。前に敵が一人いたがウイング、ミスマッチだ。鷲川はそのまま進んだ。相手を吹き飛ばし、ゴールラインの向こう側に倒れ込んだ。
トライ。22-17。逆転である。
カルアがキックを決めて、24-17。総合先端未来創世、7点のリードとなった。
「犬伏、走ってくれ」
ハーフタイム、荒山はそう声をかけた。
「僕がですか?」
「そうだ。局面を動かす」
その横で、金田がうなずいていた。
これまで総合先端未来創世は梅坂学院に勝てなかった。それは、真っ向勝負では力負けしてしまうからである。荒山がウイングからスクラムハーフに戻った今、形は普段とほぼ同じものになった。金田の突破も受け止められつつある。そんな中まだ使ってないカードは、「犬伏カルアの脚」だった。
「僕が走ることで?」
「走るイメージを持たれてないからな。後ろから見てても、金田に多めにマークがついている。そこそこ自由に走れるはずだ」
「わかりました」
カルアは緊張した。中学生の時は、走るのも自分の役割だった。ただ、決して足が速いわけではない。金田のようなステップが踏めるわけではない。前進するには、「相手が警戒していない」という条件が必要なのだ。
そして荒山の目論見通り、相手は警戒していなかった。能代の協力もあった。最初にカルアがボールを取ることにより、「走る環境」を作ってくれたのだ。
そして、鷲川が付いてきてくれるという確信もあった。入ったばかりで足があるし、何より得点に飢えている。近堂と違って小技も効く。
全てがかみ合って、目論見通りの形で得点することができた。ただ、この形は一回きりだ。
「変えていかなきゃ」
自陣に戻りながら、カルアはつぶやいた。
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