8
小茂田が、壁を乗り越えるようにして進んだ。荒山が、必死に手を伸ばした。ラグビーは、ゴールラインを越えてもボールを地面につけられないと得点にならない。ボールと地面の間に、体を押し込んでいく。
必死にボールをずらして、地面につけようとする小茂田。抗う荒川。時間にしては数秒だったが、意地と意地のぶつかり合いが続いた。
勝ったのは小茂田だった。レフェリーの手が上がる。
トライ。
その後キックも決まった。24-24、同点に戻った。
「すまない」
「いや、キャプテンは粘りました!」
声を上げたのは能代だった。
「いや、もう少し何とか……」
「まだ同点です。つき離してやりましょう」
「そうだな」
能代の様子がいつもと違うと感じて、荒山はベンチの方を見た。そこでは、宝田がアップをしていた。
多分、ラストワンプレー。
能代は、覚悟を決めていた。この状態を打破するために、宝田が投入されるのだ。それは、彼からしてみても最善の策だった。
この大事な試合で、先発できただけでも幸せだ。能代はそう感じた。ただ、まだ終わりじゃない。決勝戦も、全国大会も待っている。
宝田に、その舞台をつなぐために。
能代はボールを取ると、駆け出した。カルアのようなキック力はない。宝田のような技術もない。それでも、誰よりも練習してきた。まだ疲れていない。まだ走れる。
「金田っ」
無理やりにでも突破しようとしそうな表情をしたまま、能代はパスを出した。金田は小さなうなずいて、ボールを受け取った。
カルアが上がってくる。能代は、一番後ろへと下がっていった。
疲れていた。
わずか20数メートル。自己満足だったのかもしれない。それでも、悔いはない。
前線で、相手チームに反則があった。プレーが途切れる。
ベンチの方を見ると、神妙な顔つきをした宝田が立っていた。
能代は、両手を挙げながら走っていった。
選手交代
能代(FB 2)→宝田(FB 3)
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