4

 ボールを持ったナンバー8の芹川が、ゴールラインを越えて、ディフェンスを引きずるようにして飛び込んでいった。トライ。

 難しい位置ではないキックを、カルアが決める。14-7、総合先端未来創世が勝ち越した。

 いける。荒山は手ごたえを感じていた。点の取り合いにおいて、リードすることは重要だ。ここからは相手のペナルティにはカルアのキックでコツコツ点を入れていくという作戦も取れる。

「大丈夫か、星野」

「だいじょ……」

 瀬上が心配そうにのぞき込む。星野は進もうとするが、足を引きずっていた。

「……原院、準備だ」

「は、はいっ」

 様子を見ていた鹿沢は、瞬時に二つの選択肢を考えていた。単純に、スクラムハーフを替える。テイラーを入れることになる。もう一つは、荒山をスクラムハーフに戻すというものだ。作戦は変わるが、層はこちらの方が厚くできる。瀬上を後ろに戻してフォワードを入れるという選択もあったが、この場で決めるにしては動きすぎだと考えた。

 監督が選んだのは、後者だった。テイラーにはまだ、荷が重い局面だと考えた。

 交代を告げる。星野は、涙を流しながら戻ってきた。

「お前はよくやった。前の試合から出した俺のせいだ」

「……いえ、まだまだ力が足りなかったです」

 原院が皆に、新しい作戦を伝える。前半18分、荒山は、スクラムハーフに変更となった。

「この景色がしっくりくる」

 いつもの場所だった。ラグビーを始めた時から、スクラムハーフにあこがれていた。小柄だった、だけではない。すぐに荒山は、スクラムハーフに抜擢された。

 ウイングに行って、わかった。スクラムハーフあそこは、つかみ取るものだ。星野は頑張った。彼がけがしなければ、このまま逃げ切れたかもしれない。そういうものも背負って、楕円級を運ばなければならない。



選手交代

星野(SH 2)→原院(WTB 2)



「先輩、前半は頑張って耐えましょう」

「お、おう」

 金田からかけられた言葉に、原院は面食らった。

 1回戦でも、途中出場の原院に声をかけてきた。それは、具体的なアドバイスだった。後輩に言われて腹が立たないこともないが、金田の言うことが適切だというのもわかっていた。

 金田の目つきが、入部当初とは明らかに違う。彼が「気持ち」を言葉にするのは珍しい。

 ただ、気にもなった。星野がけがをしたとはいえ、得点した直後である。なぜ耐えなければならないのか? ここは一気に畳みかけるところではないか。

 だが、そんな原院の気持ちをあざ笑うかのように、そこからは梅坂学院の時間になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る