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網が、ほどけていく。梅坂学院の攻撃が、急にうまくいき始めた。
たった一人、星野が抜けただけなのだ。荒山がスクラムハーフに入り、本来の形になったともいえる。それなのに、いつものようにいかない。
必死に守りながら、原院は金田の言葉の意味をかみしめていた。耐える時間は、本当にやってきたのだ。
これまでも、こういうことはあった。梅坂学院はとにかく攻めの厳しいチームだ。一度こちらのバランスが崩れると、とことんその隙をつかれてしまう。絶対に勢いづかせてはいけないのだ。
自分のせいか? 原院は思った。しかし、それだけではないはずだ。くしくも、当初の作戦の正しさが証明されたのかもしれない。荒山が後ろにいることによって、守備も安定していた。支柱になっていたのだ。
監督は、大会前からテイラーを入れる場合も考えていた。それでも、今回は原院を選んだ。チームの形を変えてでも、ウイングの控えを出したのである。
必死にタックルをする。何回かは止めたが、奪うまでには至らない。
立て続けに、2本のトライを奪われた。キックは入らず、14-17、逆転を許した。
「大丈夫だ」
荒山は言った。梅坂学院のコンバージョンキックが外れた時だった。
作戦が変わって、相手に勢いが出た、ように見える。ただ、トライの位置が悪くコンバージョンは決められていない。4点を防いだ、とも言える。
まだ3点差だ。前半残り5分。梅坂学院相手にこれは、上出来だ。
だいぶ部員たちも落ち着いてきた。元々ずっとやってきた形だ。原院もそんなに悪くない。荒山は、自陣内で丁寧にボールを回していった。
耐える時間。点を取られても、話されないようにする時間。そういうものがある。
残り2分になった。梅坂学院に、ペナルティがあった。しつこく攻めてきた結果、相手がしびれを切らした形だ。かなりの距離があったが、荒山は迷わずゴールキックを指示した。
カルアは、まっすぐにゴールポストを見た。頭の中で数珠を作り、引っ張るイメージを作る。
100%の距離ではない。それでも、決めなければならない場面だった。
カルアの蹴ったボールは、少しだけ右にそれて飛んでいく。右側のポール付近を通過して、ネットに当たった。
成功だ。17-17、同点になった。
そして、ホイッスルが鳴った。前半終了である。
同点。それは、「良く食らいついている」と言っていいだろう。
何年間も、梅坂学院には勝っていないのだ。その相手に、善戦している。
自分が出ていないのに。
宝田は、複雑な思いだった。能代は、無難にこなしている。目立っていないが、特に悪いところはない。
「次、ありそうだね」
それは、森田の声だった。
「えっ」
「勝てそうじゃん。宝田、準備しなきゃ」
宝田は、眉間にしわを寄せた。
「次、ね」
「今日は出番ないでしょ。いつまでふてくされてんの」
「ふてくされてない」
「そうなのね。全員で戦ってるからね」
そう言うと森田は、宝田の頭をポンポンとたたいた。
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