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「どう思う?」
試合後、鹿沢が尋ねた相手は森田だった。
「え、何を?」
「今日の試合」
「あー。なんか最初はちょっとびっくりしましたよね。でもちゃんと修正できましたね」
「宝田は?」
「あー。うーん」
「うーんか。やはり」
「調子は良くないし……犬伏君だと、やっぱり安心できますね」
ドロップゴールも含めて、今日のカルアは一つもキックをミスしていない。そして、宝田は目立つキックを放ったわけでもなければ、試合を動かすようなプレーもしていない。
「宝田は足をかばってる。元の動きは知らないが、県内ナンバー1には見えない」
「監督まさか、次の試合……」
「俺が決断すべきだろう。チームのためだ」
「チーム、の」
「ただ、二年生以上は宝田を待っていた。決勝戦までのことを考えれば、このままのほうがいいんだろう。ただ……」
「ただ?」
「全国大会に行くなら、甘えは許されない」
森田は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。鹿沢は本気だ。いや、誰もが本気なのだが。でも、誰も全国大会に行った後の具体的なことまでは考えていない。
鹿沢は、勝つつもりなのだ。本気であと二つ、勝つつもりなのだ。
「でもその、じゃあ犬伏君をフルバックに?」
「本気で聞いてる?」
「……希望的観測です」
「そうだな、森田が一番、チームのことを見てきたと思うんだ」
「それは……そうですね」
ずっと見てきた。昨年までは、確実に荒山と宝田のチームだった。宝田が復帰すれば、またそうなると思っていた。けれども、違ったのだ。
チームは今、変わろうとしている。
「あー、せめてベンチには入りたいよなあ」
相模はため息をついた。
「いやまあ、俺だっておこぼれみたいなもんだから」
テイラーが言った。
高校ラグビーは、試合の時に25人まで登録ができる。現在総合先端未来創世の部員数は28人。3人が登録から外れることになる。
2回戦で外れたのは松上、根田、そして相模だった。けがをした松上は決まっているとして、準決勝も残り二人は1年生の中から選ばれるものと思われる。
現在テイラーがベンチ入りできるのは、控えのスクラムハーフだからである。三人目に戻ったときは、メンバーに選ばれるとは限らない。
そして三人目のスタンドオフである相模は、だいたいがベンチ入りメンバーから外れるのである。実際には監督は彼のことを「絶対にスタンドオフ」とも思っていないのだが、本人の決意は固い。
「勝てるかなあ」
とはいえ、三年生はこの大会が終わったら引退する。そうなれば、嫌でも二人ともベンチ入りすることになる。
負けたら、このチームはなくなるのだ。
「勝てる。うまく言えないけど、ちゃんとはまってる気がする」
テイラーは、見えないボールを相模に投げた。
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