8
「天才はやだねえ……」
林はへタレこみながら言った。
3対3の対決は、荒山組の圧勝だった。何回もボールを奪い、自分たちは奪われなかった。
「金田君、どうやったらそんな風に走れるの?」
カルアはへこんでいなかった。すごい三人のプレーを体感できて喜んでいた。
「なんか気が付いたら」
「気が付いたら?」
「できた」
「できた!」
林と鶴は顔を見合わせて苦笑していたが、カルアの目は輝いていた。
「それを聞いてどうするんだ?」
「僕にもできる日が来たらいいなって」
金田は、まじめな顔で答えた。
「俺は犬伏みたいなキックはできない。多分、一生かかっても。自分の武器を磨けばいいんじゃないか」
「そ、そっかなー」
「よし、じゃあキック勝負だ!」
林は苦し紛れに言ったが、宝田は両腕で大きく丸を作った。
「どちらのチームが遠くまで飛ばせるか」というチーム戦が始まった。カルアのいる「センターチーム」が圧倒的有利に思え、林と鶴は笑顔だった。だが、勝負が始まるとその表情は曇ることになった。宝田と荒山は、林と鶴の予想以上に飛ばした。金田のキックもなかなかのものだった。三人が平均を大きく超えてきたことで、カルアだけが突出した「センターチーム」は総合点では敗北してしまったのである。
「犬伏、すまん」
林が頭を下げる。
「いやいやそんな」
カルアは、楽しめていた。先輩たちのキックは美しく、参考になる部分があった。
実は、金田も楽しめていた。二人の天才が、自分のそばにいる。しかも、試合でもそうなる機会がある。
一年生二人は、存分にラグビー部を楽しんでいた。
「角度大事よ角度ー」
フォワード陣のタックル練習に対して、声を出しているのは松上だった。左腕をぶんぶんと振り回している。
「うえー」
「もう一丁!」
特に指導に力を入れられているのはプロップの根田だった。スポーツ未経験で何もかもが発展途上だったが、彼にかかる期待は大きい。同じポジションの酒井と近堂は三年生であり、来年にはいないのである。
「きついっす」
「きついとこからが勝負だ。が、練習だから休もう」
松上は根田の隣に座った。
「タックル、難しいです」
「そうだろ。ただぶつかるだけじゃない。荒山さん、よくでっかい相手つぶすだろ? テクニックがあるんだよなあ」
スララムハーフは、相手のフォワードと対峙する機会も多い。もっとも小柄でありながら、強いタックルが要求される。
「確かにすごいっす」
「出番ないとか思っててもさ、意外とあるんだよ。けが、病気、試合中の脳震盪。まさに俺がこうだもんなあ」
松上は右肩を抑えた。
「でも、僕なんてまだまだで……」
「カルアから聞いたろ? 素人集めて試合に出てたって」
「はい」
「そういうチームもいる。連合チームも。ある意味、うらやましいよな、絶対試合に出られるんだから。反対に、三軍まであるようなチームもある。もちろん卒業まで出られないやつもいる。そう考えるとさ、うちとかちょうどいいかもな」
「そういうものですか」
「頑張れば試合に出れる。さぼれば誰かに代えられる。そこそこの厳しさだ」
松上はちらりと、瀬上の方を見た。心なしか、いつもより生き生きしているように見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます