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「うおーい!」
フッカーの佐山がボールを投げ入れると、掛け声とともに瀬上が高く担ぎ上げられた。高い位置でボールをつかみ、そのままフォワード陣でモールへと移行する。
「やっぱ瀬上の方が軽いな!」
ナンバー8の芹川が、瀬上の肩をたたいた。
フォワードになるということは、ただ前に位置するというだけではない。スクラムやラインアウトに参加して、与えられた役割を果たさなければならないのだ。瀬上は、久々のフォワードを担当することになり、様々な連携を確認する必要があった。
もともと、希望してセンターに移ったわけではない。前監督に、コンバートを強制されたのだ。昨年は、今年よりも前列の層が厚かった。それに対して後列、特にセンターには中学からの経験者がおらず、弱点となっていたのである。そこで経験豊富でタックルの強い瀬上が、センターに入ることになったのである。
だが、新入生フォワードでラグビー経験者は西木だけだった。今度は、前列の層が薄くなったのである。さらには松上がけがをして、なんとなく「フォワード復帰の目がある」ことは瀬上も感じていた。
宝田だったらそうはしなかっただろう、とも思った。少なくとも手薄になる後列を、荒山をコンバートすることで補う発想は出てこないはずだ。
鹿沢監督でよかった。瀬上は実感していた。
「やべえじゃん」
そうつぶやいたのは、1年生の佐藤だった。センターを希望しており、現在はバックスが集まって連携の確認中である。
「ほいっ」
「はいっ」
金田と荒山がただパスをしているだけだった。それなのに、他の部員たちの目はくぎ付けになっていた。素早く正確なだけでなく、お互いにパスを出すのがわかっていてもそのタイミングがつかめないのだ。
「いやあ、すごいな」
「犬伏君、あれできる?」
「できない」
カルアも、その動きから目が離せなかった。金田も荒山も、すごいのはわかっていた。ただ、二人は別の場所の人間だと思っていた。だが、荒山がこちら側に来て分かったのは、二人は同じようにすごい選手だったということだった。
「ああも普通にされたら、たまんないよな」
そう言ったのは林である。今では不動のウイングとして出ているが、決して順風満帆だったわけではない。三年生になって、ようやくつかんだレギュラーだった。一番になった、と思ったら金田が現れた。そして、同級生にもライバルになりうる奴がいた。
実際、荒山がウイングに入ることによって林はセンターに回ることになった。センターの瀬上を前列に回すための、ポジションチェンジ。実際はそれだけのことかもしれない。ただ現実には、「お前の代わりはいるんだぞ」と言われているように林には感じられた。
「百ちゃん、こっちも見せてやろうぜ!」
「お、おう」
右手を挙げてアピールしたのは、三年生センターの鶴だった。二人は同じクラスで、未経験からレギュラーをつかんだ仲間でもあった。普段はセンターとウイングだが、準決勝ではセンター同士になる予定である。
「カルアも!」
「あ、はい」
三人はパスを回しながら、軽快に前に進んでいった。鶴はインサイドセンターと呼ばれるポジションで、スタンドオフからボールを受け取り、ゲームをコントロールすることが多い。その一方林はアウトサイドセンターを担当することになり、ウイングとの連携が求められる。
「奪いに行くぞ!」
宝田が荒山と金田に声をかけた。三人は、パスを回している鶴たちに向かって走り始めた。3対3の練習である。
「まじかよ、この対戦」
鶴は上唇をなめた。「レギュラー同士の練習」なのだが、鶴にとってはそんな単純なものではなかった。同級生でありながら、一年の時から当然のようにレギュラーだった荒山と宝田。そして同じく、当然のようにレギュラーの一年、金田。それに対して、鶴と林はラグビー未経験で入ってきて、三年でようやくレギュラーをつかんだ。犬伏は経験者だが、中学三年間で一度も勝利したことがないチームにいた。
「雑草とか言うなよ。そういうの嫌いだから」
林はにやりと笑った。
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