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 たった一試合のためのオプション。しかしそれは、ベスト4の壁を突破するためのものだった。

 県内屈指のスクラムハーフ、荒山がウイングへ。そしてウイングの林がセンターへ。センターの瀬上がフランカーに入る。西木は瀬上たちが準決勝に万全で臨めるよう、一、二回戦はメインで出る。

「あくまでこれは予定だ。何が起こるかわからないから。ただ、来年のことを考えても色々なパターンを考えておきたい。そしてこの作戦、一番大事なのは星野だ」

 星野の表情がこわばる。試合に出たいとは思っていても、大事な試合を任されるのはプレッシャーがすごかった。

 とはいえ、荒山の引退も迫っている。遅かれ早かれ、スクラムハーフは星野になっていくのである。

「あの……途中で先輩とポジションをチェンジしたりとかは?」

 星野が、手を挙げて尋ねる。

「お前、ウイング向いてないもんなあ」

「うっ」

「ただ、ハーフを任せられるだけの力はあると思っている。速さは荒山以上だ。星野がいるから、この作戦は成立する」

 星野は、緊張しているようなニヤけているような、不思議な表情をしていた。



「今年は東嶺……何とか高校か」

 梅坂学院高校ラグビー部主将の小茂田は、部室でトーナメント表を眺めながらつぶやいた。

 何年間も決勝で争っている宮理高校とは、別の山になることが決まっている。そのため、準決勝で当たるのがどこか、というのが当面考えなければいけないことになる。順当にいけば、総合先端未来創世高校である。

 負けたことはない。ただ、負けたくない相手がいた。スクラムハーフ、荒山健吾。中学生の時から、ずっとライバルだった。もし彼が宮理に行っていれば、宮理は花園であと2勝はできるはずだとすら言われていた。

 勝つのは当然だ。圧倒的に勝ちたい。そして、宮理にも勝って花園に行く。

 小茂田はいつになく気合が入っていた。

「ちょっと気張りすぎじゃないですかー」

 気の抜けた声でそう言ったのは、二年生フルバックの横石である。

「大会が近いんだぞ。気も張るさ」

「だって、何とか高校は宝田さんもいないんでしょ?」

「そろそろ復帰すると思うぞ」

「あ、そうなんだ。それは楽しみだなー」

 横石は、宝田に対して特別な感情を抱いていなかった。県外出身なうえ、今年からレギュラーになったので対戦経験がないのである。

「お前さ、あいつはやばいからな」

「あいつ? 宝田さん?」

「ああ。あいつと荒山はえぐい。あの二人がいるのに勝てないってのは、何とか高校もどうしたものかねえ」

「他が雑魚?」

「まあ、そうなるか。ただ、いい選手は何人かいる」

「あー、金田君」

「知ってるのか?」

「一年生の誰かから聞いた気が。何回も痛い目にあわされたって」

「そう。あの一年はやばい。宮理の榊と同じぐらいやばい」

 小茂田は、準決勝の線をコツコツとたたいた。

「50-0。それが目標だ」

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