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「松上。今日は来いよ」

 そう声をかけたのは、原院はらいんだった。二人は同じ2年F組である。

「あ、ああ。いや、どうかな」

「みんな待ってる」

「けど、することないんだわ。肩以外のトレーニングなら一人でもできるし……」

「監督は、決勝戦はお前を出すつもりだ」

「……決勝戦?」

 松上はピンと来なかった。昨年、準決勝は惨敗だった。もちろん、勝ちたい。だが、どこかで「決勝戦には行けない」と思い込んでいたのである。

「もちろん行くぞ、決勝戦。そのために、準決勝の作戦めっちゃ考えてる」

「そうか……。間に合わせないとな、決勝戦」

「それとさ、一年の指導役やってくれよ。そういうの向いてると思うんだよね」

「そんなに気を使うなよ。らしくない」

「じゃあ本音言うけどさ、俺と違ってお前はレギュラーなんだぜ。けが治せば出られるんだ。それが俺はどうよ? 一年に先を越され、今度はスクラムハーフの人にポジション奪われて。かわいそうじゃん?」

「……」

「不運だったけどさ、帰る場所があるんだよ。俺は今から、つかみ取らなきゃなんない」

 原院は、順調にいけばウイングのレギュラーになるはずだった。しかし推薦で金田を取ることになったため、当然のようにそちらが優先されることになった。実際、金田の方がうまい。そのことには納得している。しかしもう一人のウイング、林がセンターに回り、枠が一つ空くというときにさえ、自分の出番ではないのだ。例えば荒山がスクラムハーフのままで自分がウイングに入り、星野かテイラーをウイングの控えにしてもよかったはずなのだ。だが現状、ウイングとしてすら荒山の方が上だと思われている。

 実際、そうなのだろう。荒山は天才だった。走力も突破力もある。ウイングとしても優秀なのは確かだった。

 それでも。わかるのと、納得できるのは違う。

 そんな自分に比べて、松上は完全なレギュラーだった。彼一人欠けただけで、みんなが難しい顔をして作戦を考えることになる。そういう存在なのだ。

「お前、いいやつキャラ作ってね?」

「失礼な! 俺はすごくいいやつだ。お前をこれから心配しているみんなのところにつれていくしな」

「わかったわかった。行くよ」

 二人は、並んで教室を出た。

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