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 復帰には約二か月かかる。それが松上に下された診断だった。

 少なくとも、予選大会の初戦には間に合わない。

 それを知らせたのは鹿沢だった。松上は、練習に来ていない。

 松上の離脱は、チームにとってかなりの痛手だった。一流のフランカーであり、前監督がぜひとも欲しいとスカウトに行った選手である。

「どうするものかね」

 鹿沢は、自宅でメンバー表を眺めていた。今日は高校での授業がないため、部活に行く予定もない日である。

 控えの西木を出せば問題解決、というわけではない。そうするとフランカーの控えがいなくなる。

「フォワードが足りない……」

 部員不足のチームからしたら、贅沢な悩みかもしれない。しかし上を見れば、戦力の整ったチームはいくらでもいる。もう一人怪我をしたら、致命傷になりかねない。

 スクラムハーフに三人。スタンドオフに三人。やはりここを何とかしなければならないのだ。しかし、フォワードに誰を回せばいいのか?

 いろいろなパターンを頭の中で組み立てる。あれはだめだ。これは困る。

 悪いところばかりがはっきりとしてしまう。

 そんな中、悪魔のような選択肢が残ってしまった。

 それは、チームの在り方を根本から覆すような構成だった。

「ただ……バランスはいい」

 鹿沢は、ノートに作戦を記し始めた。



「ウイングをする?」

「準決勝だけだ」

 県大会の組み合わせが発表された日、鹿沢は荒山だけを呼んだ。

 総合先端未来創世高校は、宮理高校とは反対のブロックになった。準決勝の相手はおそらく梅坂学院高校である。チームは梅坂学院高校に対して、ここ七年間一度も勝利していない。

「最初二戦は勝てるだろう。ただ、準決勝はかなり厳しい。松上もいないとなると、前は薄くなる。一年生二人はさすがにまだ期待できない。林にセンターに回ってもらって、瀬上に前を頼む」

「瀬上……たしかに、もともとフォワードでした」

 二年生の瀬上は、センターとしては大柄である。タックルが強く、中学までは前列の選手だった。

「フォワードは3年生5人だ。これは、来年を見据えてでもある」

「でも……自分で言うのもなんですが、梅坂学院相手に星野で大丈夫なんでしょうか」

 荒山は、本心ではスクラムハーフで出たかった。プライドがあった。しかし同時に、勝てるならばどんな作戦でもやってみる価値があると思っていた。監督の口ぶりからすれば、決勝戦に進めばスクラムハーフは荒山になりそうだった。準決勝で負ければ、その後は何もないのである。

「星野で勝てるチームにしていかなければならない。俺は今年で解任されたくないし」

 チームは続いていく。卒業が近づいているため忘れそうになることがあるが、荒山がいなくなっても、チームの挑戦は終わらないのだ。

「そうですね……」

「それに、お前がけがをしたときにギブアップするわけにはいかないんだ」

 鹿沢の目は、ギラついていた。

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