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「勝ったチームの顔じゃないな」
試合終了後、部員たちを見渡してから鹿沢は言った。三年生を中心に、浮かない表情をしている部員が多かった。
「宝田はどう感じた?」
「えっと……苦しかったです」
「そうだな。ただ、言わなかったんだが……実力は向こうが上だと思っていた」
「えっ」
「互角といえなくもないが。専門家が予想すれば向こう持ちが多かっただろう。東博多とやったおかげで、お前らはいい意味で感覚が狂っていた」
「そうなんですか……」
鹿沢は、目を真ん丸にして、口元で笑った。
「弱い自覚を持つのも大事だが、必要以上に卑屈になる必要はない。お前らはすでに、全国制覇をするかもしれないところと戦った。あとは、ほとんどがそこよりも弱いところだ。宮理もな」
ただな。鹿沢はそこから先は言葉にはしなかった。ここで自分たちが強いと勘違いすると、まずいんだけどな。
「トライ、しちゃったなー」
「金田君、パスしてくれたね」
カルアは、西木と風呂に来ていた。試合後、とにかく西木は機嫌がよかった。
「確かにあいつ、パスが偏ってるよな」
「そこが嫌われるのかもね」
「カルアちゃんに言われるなら相当だ」
「まあ、平等にする必要はないけど……」
カルアは、この数か月間で様々なことを感じてきた。中学生の時は、「試合を成立させる」のが目標だった。ルールも知らない助っ人に、しょうもない反則をさせないことすら大変だった。個人個人のプレースタイルなど言っている場合ではなかった。
けれども高校では、試合が成立するのが当たり前になった。個性的な選手たちが、持ち味を生かしてプレーしている。そして、戦術を覚えなければいけなくなった。カルアがキックを蹴るかどうかで、戦局は大きく変わる。また、中学までと違いフォワードと塊を作って攻める機会も多い。その時バックスに求められるのは、相手のフォワードを速さで翻弄することだ。金田にはそれができるが、今のカルアには難しい。
することがたくさんある。
それは、楽しくもあった。あこがれていた、ラグビーらしいラグビー。
ベンチから見たときに、金田のポジショニングは完ぺきに見えた。守備もきちんとこなす。基礎はすべて高いレベルでやったうえでの「個性」なのだ。カルアも早く、その域に達したいと思った。
「正直どっちが上なんだろうなあ、金田ちゃんと榊ちゃん」
「ポジションも違うしなあ」
扉の開く音がする。振り返ると、金田がそこにいた。
「おー、噂してたよー」
「俺?」
「そうそう。今日のパスありがとね」
「不安だったけど」
「大丈夫よー、一年トリオで頑張ろうよー」
三人はしばらく、風呂場で語り合っていた。
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