6
金田がすごい。
ベンチから見る試合は、単純に面白かった。カルアは、今さらながらにそれを感じていた。
同年代の試合を見る機会は、ほとんどなかった。たまに都会に出て試合をすると、試合後のチームメイトは遊びに行きたがった。カルアは残りの試合を見たかったが、頼んで参加してもらっているメンバーも多いので言い出しにくかった。
知っているのは、自分たちが惨敗するゲームだけ。
高校ではラグビーはいいかな、と思うようになった。彼は、勝つ魅力も、接戦の面白さも知らなかったのである。
15分を過ぎても、両軍得点を入れられなかった。カルアは気が付いた。「本当に、手に汗を握っている」
「犬伏、アップしろ」
「え? あ、はい」
言われたとおりに立ち上がりカルアはアップを始めたが、納得はしていなかった。まだ試合は序盤。アクシデントもないのに交代というのは珍しい。ただ、監督には何か考えがあるのだろうと思った。
金田(WTB 1)→犬伏(WTB 1)
「まさかのようこそ金田ちゃーん」
「えーと……」
金田は状況を把握できていなかった。彼はこれまで、交代させられたことすらほとんどなかった。それがこんなに早く、しかもカルアと代えられたのだ。カルアはそのまま、ウイングに入った。専門職ですらない選手と、交代させられた。
「金田ちゃん、納得してないな」
「どこか、悪かったですか?」
金田は、まっすぐに鹿沢に向かっていった。
「悪くないよ。むっちゃいい」
「ならなんで……」
「そういう作戦もある。弱者には」
その瞬間、多くの者の表情が変わった。一番変わったのは宝田だった。荒山ですら、獣のような顔になった。
「監督の作戦ですか。テイラーではなく?」
しかし、一年生たちはほとんど顔色を変えていなかった。そのことに今度は上級生たちが戸惑った。
「そうだ。テイラーには『したいこと』しか聞いていない。その中にはもちろん金田のことも含まれていたから、今頃あいつも驚いてるだろう。けれども、味方でさえ考えないような策が必要になることもある。そして、今のお前たちかの顔見たらわかるさ。『強者』だと思ってたんだろ? 間違っちゃない。県ベスト4は強い。けど、小結が大関のつもりでいたら笑われるだろ。宮理を横綱と思ってたら、そうなっちまう。けど、あいつらも全国では苦戦する。それより俺たちは弱いんだよ。弱いけど勝つにはどうしたらいいか。考える。それを実行する。虚をつく。弱点を隠す。長所を際立たせる。熱血監督は、きついけど心地よかっただろ? お前たちを大関気分にさせてくれたからだ。けどよ、小結が小結の力のままで優勝するには、なんかなきゃいかんだろう」
その時、入ったばかりのカルアにボールが渡った。カルアの蹴ったボールは、敵陣深くまで飛び、ラインを割った。
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