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練習試合 対西嶺高校戦オーダー


鷲川(PR 2)

佐山(HO 3)

近堂(PR 3)

須野田(LO 2)

小川(LO 2)

甲(FL 3)

松上(FL 2)

芹川(NO8 3)

テイラー(SH 1)

二宮(SO 2)

鶴(CTB 3)

林(WTB 3)

金田(WTB 1) 

瀬上(CTB 2)

能代(FB 2)



「ようこそカルアちゃーん!」

 ベンチで西木が手を広げていた。

「あー……そういえば」

 中学の時は人数がギリギリだった。そして最近はなんやかんやほとんど試合には出ていた。「一年生経験者唯一のベンチ」になりがちだった西木は、仲間ができてうれしかったのである。

「俺たちもようこそー」

「ようこそー」

 ほかの一年生たちもなぜだかうれしそうだった。

「楽しそうだなあ」

 柔らかな瞳でそう言ったのは、荒山である。

 彼がスタートから試合に出ないのは、一年生歓迎対抗戦以来である。以前の練習試合で、最後の五分だけ星野に交代したことがあった。来年を見据えてのことだったが、それでも「たったの五分」が限界だったのである。

 そんなチームにあって、今日の先発は一年生のテイラーだった。練習試合とはいえ、誰もが予想しないことだった。

「お、俺は……」

 星野は両手をわなわなと震わせていた。絶対的なレギュラーに席を奪われてきた彼にとって、二番手まで奪われるのは屈辱でしかなかった。しかも監督は、試合を見て判断したわけではないのだ。

 テイラーの何がいいのか。確かに見た目はすごくやり手っぽい。しかしそんな理由で選ぶわけがない。

「星野ー、教えておくよ」

「わっ、監督」

 星野の真後ろに鹿沢監督は来ていた。

「これはオプションの確認に過ぎない。司令塔を変えてチームが変わるなら、見ておかなくちゃならない。『星野バージョン』はこれまでのものを何回か聞いた。けど、『テイラーバージョン』は部員もまだ何も知らない」

「そうですね……でも……まだ、あいつ全然じゃないですか?」

「そうなんだよ。そういうときの、他のできるやつの様子が見てみたい」

 鹿沢は本当に思ったことを言っていたが、星野は「胡散臭い大人だなあ」と感じていた。



 不思議な感じだった。

 東嶺対北嶺は、十年続く伝統の対決だった。名前からくるものだったので、今年は開催されない恐れもあった。「東嶺高校」は、消えたのである。

 北嶺のキャプテン、尺川は「勝たなければならない」と思っていた。これまでは、負け越している。大差の時もあった。しかし北嶺は力を付けてきており、東嶺は名前を変えただけでなく、在り方も変わった。コーチはいなくなり、推薦も一人に。そして新しい監督は、英語の非常勤講師だという。

 最後の輝きかもしれない。

 強豪校が弱くなるのはすぐだ。魅力が減ると、目指す人間も減る。勝てないとやめていく部員も出でくる。

 今のうちに輝きを摂取しておきたい。尺川はそう思ったのである。

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