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「テイラー、相談がある」

 練習後、賀沢監督が呼んだのは一年生スクラムハーフだった。

「え、俺? わかりました」 

 テイラーは期待と不安と、複雑な感情を抱えながら応えた。宝田には何度もコンバートの打診をされている。新監督も同じことを言うかもしれない。

「二年後のスクラムハーフ候補だからね。どういうチームにしたい?」

「え、二年後?」

「あ、いや。今すぐだってレギュラー奪うかもね。それはそれ。でも君は三年間、このチームのハーフだからね。主将になるかはわからないけど、ある程度チームを作っていく立場だと思うんだ」

「俺がチームを……」

「みんなが頑張れば、監督の首もつながるからね。正直非常勤って毎年がギリギリなのよ。だから俺は、二年後三年後も考える」

「強く……なれますか?」

「なれる。というか、とりあえず倒す相手は二校だからね。対策すれば、攻略は可能だ」

 ここ数年、県内は宮理高校と梅坂学院高校が二強となっていた。総合先端未来創世高校は。長い間公式戦ではこの二校以外に負けていない。

「だったら……推薦で、2メートルを取ってほしいです」

「2メートル?」

「でっかい人。ラインアウトで勝ちたいです」

「ほう。それは何で?」

「犬伏がキックで稼げるから……ラインアウトが強ければ、相手から奪ってそのままトライできます」

「ふむ。しかし2メートルの中学生とかいないだろ」

「1メートル85でも!」

 鹿沢は、にんまりと笑った。心の中で「合格だ」とつぶやいた。



「先輩、『?』って駅です!」

「は?」

 一行は、特急電車で目的地に向かっているところだった。一年生の佐藤と二年生の鷲川は隣同士で座っていた。

「どう見ても『?』です」

「『つ』だろ。ひらがなの下に漢字の」

「えっ? あー」

 後ろの席から笑いが起きる。

 一年生にとっては、初めての県外遠征だった。部にとっては毎年恒例の交流戦。

「どんなチームなんですか?」

 カルアの隣は三年生の芹川だった。

「よくまとまってる。バックスが強いかな。ま、フォワードはうちの方が上よ」

「あー」

 バックスなら不利かもしれない。そうともとれる発言に、少しだけカルアは胸が痛んだ。自分はバックスの一人で、今は一応レギュラーで出る立場である。

「ただまあ、三分の一が入れ替わってるからね。お互い別のチームになってるのかもしれない」

 カルアは、昨年までの先輩たちを知らない。どんなチームだったのか、何が得意だったのかがわからないのだ。ひょっとしたらすごいスタンドオフがいて、それと比べて先輩たちはカルアに失望しているのかもしれない。

 勝てるチームってのはつらいな。カルアは中学の時が懐かしくなっていた。

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