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「近堂、準備しておけ」

 冷たい声だった。近堂と共に、森田も驚いて宝田を見た。

「わかった」

 近堂は低い声で応えた。

 右手が震えていた。

 近堂は、これまで宮理戦で出場したことがなかった。ベンチから、完敗する様子を眺めるばかりたった。

 相撲のように金星はない。それがラグビーをするようになって感じたものだった。15人の力が集まって、一つのチームとなる。優秀な誰かが、幸運な何かでどうにかできるというものではない。実際に今、14点の差が開いている。実力差が、きっちりと結果に反映される。

 メンバー交代は、一つのきっかけにはなるだろう。けれどもそれは、15分の1が替わることでしかない。

 期待されればされるほど、答えられないだろう予感に打ちのめされそうになる。

 一年生のときに出た、相撲の団体戦のことを思い出す。2‐3で負けるたびに、「自分が勝てば」の思いにつぶされそうになった。「お前が負けるのは予想の範囲内だったから」と言われても、心が救われることはなかった。そしてその思いを乗り越える前に、自分以外の部員はいなくなってしまった。団体戦でリベンジする機会は、なかったのである。

 今なのか。それは、

 近堂が葛藤する中、前半が終了した。



(途中経過)総合先端未来創世0-21宮理



「まだ21点! 後半取り返すぞ」

 宝田の声が響く。その時、カルアは肩を叩かれた。振り返ると、荒山がいた。

「後半、蹴っていってくれ」

「は、はい」

 金田の見立ては正しかったのか。作戦として、カルアのキックが期待されることになった。だが、カルアは冷静になって状況を分析していた。21点差は、ペナルティゴールでいえば7本が必要である。とてもじゃないが、そんなに反則はしてくれないだろう。また、宮理のラインアウト保持率は100パーセントである。遠くに蹴り出しても、球を奪えなければ得点はできない。

 近堂が、目を泳がせながらフィールドを見ていた。

「切り札は先輩で頼みますよ」

 カルアは、小さな声で言った。

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