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 大きな体を揺らしながら、酒井がボールを前へと運ぶ。誰もその突進を止めることができず、最初のトライが達成された。

 酒井の肩を、荒山が叩く。ベンチの宝田は、何回もうなずいていた。

 かつて酒井は、「あすなろセカンド」というクラブにいた。昔は名の知れたチームだったが、酒井が入ったときにはメンバーは10人。監督もやる気がなく、試合に遅刻することがあるほどだった。そんなチームを立て直すため、父兄や卒業生に頭を下げて回ったという過去が酒井にはある。

 そんな酒井の姿を見て、荒山と宝田が「高校では一緒にやろう!」と誘ったのだ。

 酒井は、二人に恩を感じている。ベスト4常連のチームで、共に上を目指すために戦いたいと言ってもらえたのだ。三人は一年生の時からレギュラーとなり、チームを支えてきた。そして三年目、今年でチームメイトとしての戦いも終わりである。

 今日は取れるだけ点を取る。酒井はそういう気持ちで試合に臨んでいた。



「あのプロップはいい選手だなあ」

 酒井のトライを見て、鹿沢は言った。そして、メモをとる。

 当然だが、良いフォワードがいるチームは強い。でかい選手がずんずん前に出てきて、止められなければ失点する。単純なことだが、守備側にはどうしようもないときがある。

 圧倒的なフォワードがいるということは、上位を目指す上では大きなアドバンテージである。ただ問題なのは、上位校にはだいたいそういう存在がいるということだ。

 調べたところ、まだ一度も東嶺高校は県大会の決勝戦に行けていなかった。そんな中で監督・コーチが解任されたとあってはここからは確実に「下り坂」だろう。

 しかも、確実な「穴」も見えた。レギュラーなのかはわからないが、バックスのうち二人、ウイングの犬伏とフルバックの能代は動きも悪く、ポジショニングも甘かった。

「ウイング人材不足? フルバックは物足りない、と」

 前半が終わった。スコアは38-0。実力の差は明らかである。ただ、鹿沢は物足りなさを感じていた。連合チームは、明らかに連携が取れていない。

 鹿沢は何回か、100点以上取られて負けた経験がある。ラグビーというのは、気合いでは何ともならないところが多いスポーツである。相手の突進が止められなければ、次々とトライを決められる。コンバージョンキックも決められると、7点入ってしまう。高校時代、「まっすぐ走られ7失点」は、何度も経験した苦い記憶である。

 全国に行くようなチームには、そういう圧倒的な強さがあると思っていた。だが、総合先端未来創世にはそのような強さは見えなかった。

「後半、変わるかねえ」

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