10

荒山(SH 3)→星野(SH 2)



「あー、星野先輩か」

 テイラーは舌打ちをした。

 後半25分。残り時間はたった5分だ。

「頼んだぞ」

 荒山は笑顔で星野の頭をなでた。

「うっす」

 星野は、鼻息荒くフィールドに入っていった。

 時間は少ない。ただ、スクラムハーフなので、必ずボールには触れる。

 27分。昨年度、星野が公式戦に出た時間である。荒山は絶対的レギュラーであり、全試合先発だった。星野もスクールでは三年間レギュラーだったが、全く歯が立たなかった。

 来年は、荒山もいなくなりレギュラーになるだろう。昨年までの監督も、そういう方針で育てているのが分かった。

 だが、待っているつもりはない。いまだって、一番になりたい。

 星野は勝負の地へと向かった。



 星野はボールへと走ると、周囲を見ずにパスを出した。新入生歓迎試合のときとは全く違う動きだった。

 そして、パスを受けたのは近堂だった。ボールを少し前に運び、拠点となる。再び星野がノールックでパスを出す。受け取ったのはカルアだった。

「鶴!」

 星野の声が響く。センターの鶴は、本来より外側にいた。パスを出す? 遠いし、効果的な位置には見えない。そうか、そういうことか……

 カルアは緊張した。時間をかけられない。飛ばしすぎても行けない。つまり。

 カルアは、鶴の前方に球を蹴り出した。ラグビーでは、前にボールを投げることはできない。キックは前に飛ばすことができるが、待ち伏せ行為をしてはいけない。蹴る人よりも後ろから、球を追いかけなければならないのである。

 鶴は、軽快に走った。ボールは変則的に転がったが、動きを予測していたかのように一直線にボールへと向かっていった。そしてボールを手にすると、そのままトライを決めた。

「わかってくれて嬉しいぞ!」

 カルアのところに駆け寄ってきた星野が、背中を叩いた。

 カルアは思った。圧倒的にこの人がスクラムハーフのナンバーツーだ。テイラー、ごめん。

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