8

「俺だってやるぞ!」

 ボールを持った西木は、まっすぐに突っ込んでいった。

 推薦でどこかに行けるかもしれない。中学生の時は、少しだけそんな淡い期待があった。だが、どこからも声がかからなかった。そんな中選んだのは、県外の総合先端未来創世高校だった。自分を知らない人々の中で、一から全国を目指す。ベスト4常連校ならば、「ちょうどいい」と思ったのである。

 だが、チームの支柱である宝田が怪我で試合に出られず、校名変更と共に体制も変化、推薦が一人しか入らず、監督もコーチも不在という状況だった。

 これから弱くなっていくんじゃね?

 そんな学校はいくらでもある。推薦でとりまくり、急に強くなるところもある。上位から弾き出された伝統校は、宣伝効果が薄まったとして推薦枠を減らされ、弱くなっていく。魅力がなければ、目指してやってくる生徒も減る。あっという間にもっと弱くなる。

 間違ったのか? そう考え始めたときに、犬伏カルアが見つかった。

 中学生の時、唯一「度肝を抜かれた」選手だった。

 上手い選手、賢い選手はいくらでもいた。ただ、「やばい選手」というのはほとんどいない。たった一つのプレーで、全ての空気を変えてしまうような。

 一回戦。圧勝した試合。そこで一番やばかったのは、確かに犬伏カルアだった。

 そして、もう一人の「やばそうなやつ」がチームメイトになった。金田為久。見たことのないステップで、相手を翻弄する。しかも、周囲がよく見えており、適切なアドバイスができる。ただ、その言葉が鋭すぎて、孤立しているようにも見える。

 きっと、天才なんだろう。

 一年生でのラグビー経験者は、犬伏と金田と西木、そしてテイラーの四人。それを考えたとき、西木は戦慄した。「この世代支えるの、俺じゃね?」

 実力では金田が圧倒的だ。しかし、リーダーに向いているようには見えない。犬伏とテイラーは全くリーダーシップが感じられない。どこかのほほんとしていて、周りのことはあまり見えていない。

 チームが転げ落ちていかないためには。弱くなって、どんどん弱くならないためには。俺が支えていかなければ。支えていくのを、認めてもらえるようにならなければ。

 カルアのパスが、西木へと投げられた。単なるパスではない。二人飛ばしだった。

「そういうのする人!?」

 


 二人飛ばし、一度やってみたかったのだ。

 もちろん、それだけではない。カルアは、西木に活躍してほしかった。

 信じたのだ。だが。

「ノックオーン」

 西木はボールを落とした。

 ラグビーは球を前に落としてはいけない。前に投げてもいけない。後ろに投げて、前に走る。もしくは、キックをする。そうやって前進していくのだ。

 信じたのだけれど。うまくいくとは限らないものだな。

 カルアはぼんやりと考えていたが、じっと金田が自分のことを見ているのに気が付いた。少し、攻めるような視線だった。信用しろって言ったじゃない? と訝しんだが、よく思い出してみると金田はこう言っていたのだ。「上級生と俺のことは信用しろ」と。

 ひょっとして、西木は入っていない?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る