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「そろそろいっか」

 荒山はつぶやいた後、審判に「PG」を伝えた。審判は一度動きを止め、「本当に?」と尋ねた。

「本当です」

 カルアが呼ばれた。自陣22メートルライン付近。準備をするカルアを見ながら、相手チームのメンバーも、「タッチキックと勘違いしているのでは?」とざわざわし始めた。

 遠い。ただ、遠いだけあって角度はない。ただ、足を振りぬけばいい。カルアは、集中した。

 中学生のころは、この瞬間のためだけに日々練習を繰り返していた。完封されたくない。そのためには、ゴールを決めるしかない。どんなに遠くても、ペナルティを貰ったら点を奪う。

 もしも。県大会決勝。残り一分。1点差で負けている場面だとしたら。

 この一本で、勝負が決まるとしたら。

「カルア君決めろーっ」

 根田の声が聞こえた。ああ、知らないんだ。僕は、絶対に外さない。相手が強かろうが、どうだろうが、この瞬間は誰も邪魔しない。ただ、時間がかかると邪魔しにくる場合もあるけど。

 犬伏カルアは、キックを失敗したことがないんだ。

 カルアの足にはじき出された楕円級は、ぐんぐんと伸びて、どこまでもまっすぐに飛んで、ゴールポストの間をくぐり抜けてもまだ失速しなかった。

 成功。

「ちゃんとできた。よかった」



「なんじゃありゃあ」

 蔭原は目を丸くしていた。

「見たことないキック力だ」

 小茂田は同じ顔にならないよう意識して目を細めていた。

「誰だよ」

「犬伏カルア……会ってたら絶対忘れない名前だけど」

「わけわかんねーな。けど、キック以外は下手だった」

「サッカー部?」

「にしてはえらいまっすぐ蹴ったぞ。ボールに慣れてるやつのキックだ」

「金田君以外にも一年生、ちゃんといたんだね」

「宝田が間に合ったら、ちょっとこわいかもな」

「そっちはそうかもね。うちは大丈夫」

 決勝常連の二人が見守る中、試合は総合先端未来創世が完封のまま進んでいった。

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