6
近堂は、大きく息を吐き、空を見上げてからフィールドに入った。以前は、同じようにして土俵に入っていた。
二年生になり、相撲部が廃部になった。先輩たちが抜け、後輩が誰も入らなかったのだ。団体戦での活躍を誓っていた近堂にとって、喪失感はとてつもなく大きかった。
そんな彼に声をかけてきたのは、荒山だった。隣のクラスの彼は、ラグビー部の有望選手として名前が知られていた。体はそれほど大きくないが、ラグビーでも「スクラムハーフ」というポジションは小さくてもできるらしい。
「近堂君さ、ラグビーしない?」
単刀直入だった。近堂は面食らった。球技などしたことがないし、向いているとも思わなかった。ただ、入学したころはアメフト部から勧誘された。ラグビーも似たようなものの気がする。
「いやあ、興味ないというか」
小学生の頃から、相撲をやってきた。高校で活躍して、卒業したら大相撲に行くという目標があった。ただ、一年やってきて、それは無理かもとも思い始めていた。なかなか勝てず、強くなれる実感がわかなくなってきたのである。それでも団体戦なら、活躍できるかもしれない。そう思っていたのに。
「向いているとおもうんだけどなあ。見学だけで来てよ」
あまりに何回も誘われるので、ついに近堂は練習を見に行くことになった。そしてそこで見たのは、想像以上の「団体戦」だった。特にスクラムは、相撲でも見たことのない「みんなでの押し合い」だった。
「どうだった? あのスクラムに近堂君が入ったらさあ、強いと思うんだよね」
何もしないよりはいいか。ついに近堂は、ラグビー部に入ることを決断したのである。
しかし、道のりは簡単ではなかった。ラグビーは走る競技であり、投げる競技である。高校まで未経験者も多かったが、二年生から、というのは彼一人だった。同級生たちはすでに皆、それなりの技術を身に着けている。だが近堂は、ルールすらちゃんとは覚えられていなかった。
一年経ち、三年生になった。チームで一番大きな彼は、まだレギュラーになれていない。今日も、三年生で唯一新人チームに入っている。
点を取るとしたら、自分だ。近堂はそう思っていた。体重で、押し切る。三年生で、押し切る。
だが、他に可能性が二つ、出現した。金田と、犬伏だ。金田は一年生とは思えない堂々とした振る舞いで、試合中も素晴らしいパフォーマンスを見せている。おそらく、今後の試合もレギュラーとして出るだろう。中学から注目されていて、エリート中のエリートだった。
もう一つは、犬伏。今日突然現れた彼は、とんでもないキックを見せた。そして、ドロップゴールも自信があるらしい。少なくとも中学からの経験者で、自分よりもうまい。
近堂は三年生になって初めて、ラグビーにおいて負けたくないと思った。「点を取るのは、俺だ」と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます