　推薦の話が来た時、金田は単純に驚いた。東嶺高校は、別の選手を推薦で獲るという噂だった。しかも来年度から学校の体制が変わり、推薦は一人しか獲れないらしいということも伝わっていた。

　その一人が、自分？

　能力があることは自覚していた。所属していたチームでは、得点を量産していた。ただ、チーム自体の成績は良くなかった。そしてそれが金田のせいであるという噂もあった。

　「金田はチームを破壊する」そんなことがまことしやかに言われていたのだ。

　2年生のスクラムハーフ、星野はかつてのチームメイトだった。先輩たちに金田のことを聞かれた彼は、「才能だけなら県内一かもしれません」と答えた。「ただ……」

　それでも、金田は選ばれた。

　東嶺といえば、県内ベスト4の常連。全国にいつか行けるかもしれない学校だった。しかも今のチームには荒山と宝田という天才二人がいる。

　頑張るしかなかった。

　実際のところ、宝田は怪我。監督・コーチ不在。トップを目指すには、厳しい状況だった。

「やるしかねえだろ」

　歓迎試合だからと言って、楽しもうなどとは思っていなかった。レギュラー相手でも、勝ちに行く。その気持ちで金田は戦っていた。

　一部で「金田ステップ」と言われる独特な走りは、初めて対戦した相手を混乱させる。下半身の動きと上半身の動きが全く別なのだ。しかも金田は、視線の使い方まで心得ている。一度走り出すと、なかなか止まらない。

　ただ今日は、パスを出した後、仲間が上手く前進することができなかった。何といっても、初心者も含めた控えチームなのである。ボールをつかむだけで精一杯の者もいる。

　何とか点を取りたい。

　そうは思っても、一人でゴールまで持って行けるほど甘いとは思っていなかった。レギュラー陣の守備は分厚いのである。ボールは維持しているものの、徐々に後退させられている。スクラムのテイラーももたもたしており、なかなか球を出せない。

「犬伏を使って！」

　西木が叫んだ。ここ数日、ずっとその名前を強調していた。正直、誰も聞いたことがない名前だったし、所属中学も全く印象になかった。それても西木は言い続けた。「犬伏はやばい」

　今のところ、何の特徴もない選手に見えた。ただ、仲間の力を知っておくのも需要だ。

「犬伏、やってみろ！」

　金田は、自ら突破していきたいのを我慢して、犬伏にボールをパスした。

「あっ、きちゃった」

　パスを受けた犬伏は、しばらくその場にとどまり、そしてゆっくりと右足を振り上げた。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい