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カルアのタックルは、楽々とかわされてしまった。開始50秒、レギュラーチームはノーホイッスルでトライを決めた。
「ひゃああ」
カルアは、情けない声を漏らした。ボールを取ってから、二つのパスと独走で一気に持っていかれた。今は敵だが、入部すれば仲間になる。中学時代のことを思い出し、「ありがたすぎるなあ」と思った。
そして、キックに向かったのは能代。レギュラーチームのフルバックである。本来は控えだが、レギュラーの宝田が怪我をしているため、今回はレギュラーとして出ている。宝田の完治はまだ先のことで、しばらくは彼がフルバック、そしてキッカーとして採用される見込みだった。試合に出られない宝田は、チームのコーチ代行のような存在になっており、今日はレギュラーチームの監督である。
能代は、震える手でボールをセットした。公式試合ではないものの、キッカーとしてはデビュー戦のようなものだったのである。ゴールポストをまっすぐに見る。
「はずしそう」
カルアが思わずつぶやいたので、何人かがぎょっとして彼の顔を見た。そしてボールは、大きくポストを外れて飛んでいった。
「やっぱ犬伏君すごいなあ」
西木だけが、カルアの言葉に感心していた。
能代は、首をひねりながらしばらくゴールポストを見つめていた。
試合が再開される。ボールを獲得したレギュラーチームは、パスをつないだ後突進してくる。今度は何とか、食い止めることができた。新人チームには三人の2年生フォワードが加わっており、3年生の近堂も加えて彼らが守備の生命線でもあった。ただ、ボールを奪うまでには至らず、じわじわと押し込まれている。西木以外の1年生フォワード二人はラグビー未経験で、根田に至っては運動部に入るのが初めてであった。ボールを追いかけてあたふたとする1年生たちは、正直戦力になっていない。
「ノックオン!」
だが、ミスはいつでも起こり得る。レギュラーチームが反則を犯した。新人チームのボールでスクラムが組まれる。さすがにここでは「あまり押さないでおこう」ということになっていた。
テイラーがおそるおそるボールをスクラムの中に入れる。気を遣った先輩たちが、すぐにボールを後ろへと送る。ボールをつかんだテイラーは、思い切り大きくパスをした。それを受け取ったのはウイングの一年生、金田である。
カルアは、その姿に釘付けになった。独特のステップと、ぶれない上半身。レギュラーチームの二人が、抜かれた。パスを出した後仲間がボールを取られたので得点にはつながらなかったが、あわやというシーンを作った。
「すごい同級生がいる」
カルアは、不思議な感動を覚えていた。
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